Weekend Mathematicsコロキウム室2000.1〜3/NO.85

コロキウム室



NO.739 2000.2.12.月の光虚根を持つ確率

二次方程式 x2+ax+b=0 に対して -k≦a≦k -k≦b≦k の範囲で 適当にa、bを選ぶとき、虚根を持つ確率を求めてください。
また、k→∞としたときはどうなるでしょうか。
NO.441 ビュフォンの針の問題 のように図形の面積から確率を求める問題で面白いと思います。



NO.740 2000.2.12.WAHEIリングセオリー(13)

(群の作用について)

今後のリングセオリーの準備として、群の作用について考えましょう。 まず、Gと書いたら群とします。(可換性は今は仮定しません)

(定義)
集合X≠φに群Gが作用するとは次の2つを満たす写像m:G×X→Xが与えられていることを言う。

  1. m(a、m(b、x))=m(ab、x)
  2. m(e、x)=x

但しa、b∈G、x∈XでeはGの単位元とする。

この事をGのXに対する左作用といいます。 右作用もあるのですが、多くの場合、左作用を右作用に変換する事は容易ですから 今は左作用の事を単に作用といいます。もし集合XがGと等しければ、 作用というのは単にG上の演算です。 (演算とはそのようなものでした。 NO.717 リングセオリー(1) の環の定義を見てください)この事から演算の書き方を真似してみれば、(1)はa(bx)=(ab)xを表していて、(2)はex=xを表しています。 またもちろん、abはG内での積です。 一般論ではよくわからないと思うので、例を紹介します。

(例1)
∀a∈G、∀x∈Xに対してax=xと定めると群Gは集合Xへ作用します。 これはあたりまえですね。でも確かめてみましょう。
a(bx)=a(x)=ax=x
(ab)x=x
よって、a(bx)=(ab)xなので定義の(1)はOK。
定義の(2)ももちろんOK。
この作用を自明な作用(Trivial-Action)といいます。この作用はXの元を不変にする作用ですね。
以下、GはXへ作用している、つまりこのような写像が少なくとも1つは与えられているとしましょう。

(例2)
a∈Gとし、写像La:X→XをLa(x)=axで定めます。
するとLaは全単射です。(Laというのはaを左から掛けるということです。LはLeftの頭文字です)
まず、ax=ayとしますと、両辺左からaをかけることでx=yだから、Laは単射です。
かつ、La(ax)=a(ax)=(aa)x=ex=xなのでLaは全射です。
従ってこのLaは全単射です。
NO.706 代数方程式の代数的解法(4) で対称群S(X)について考えてみました。 LaはXからX、つまり自分自身への全単射なのでLa∈S(X)がわかりました。

さて、この作用を用いて集合X上に同値関係を定める事ができます。
〜:={(x、y)|x=ayとなるGの元aが存在する}
このようにX上に関係を定めますとこれはX上の同値関係となるのです。
実際にやってみますと、まず、e∈Gでx=exよりx〜x。
また、x〜yならば、定義からあるGの元aが取れてx=ay。
よって両辺左からaを掛けてax=y。
もちろんGは群だからa∈Gであり、よってy〜x。
最後に、x〜y、y〜zとすると、x=ay、y=bzと書ける。
(但しa、b∈G)すると、x=a(bz)=(ab)z。よってx〜z。

(定義)
この〜に関するx∈Xを含む同値類C(x)は明らかに {ax|a∈G}で、これをxのG-軌道(G-orbit of x)という。
また、x∈Xについて、
N(x):={a∈G|x=ax、x∈X}をxにおける等方群(isotropy group of x)という。

このN(x)はGの部分群になっている事がわかります。
まず、ex=xですからe∈N(x)。よってN(x)≠φ。
また、∀a、b∈N(x)を取ってくるとXの元を不変にするので、 x=ax、y=by(x、y∈X)であって、y=byに注目すると、 両辺左からbを掛けてby=y。
ですから、bもXの元yを不変にしている事がわかり従って、 b∈N(x)である事がわかります。示したい事はab∈N(x)です。 (なぜなら、これが部分群の定義でしたから)
つまり、abをXの元に作用させたときXの元を不変にすることを言えばいいわけです。
x∈N(x)にたいして、(ab)x=a(bx)=ax=x。
よって、abもXの元を不変にしていることがわかり、ab∈N(x)です。 よってN(x)はGの部分群です。
また、G-軌道についてですが、これは軌道というイメージがなかなか湧かないかもしれません。 G-軌道は同値類なので集合を分割します。 やはりこれが基本の考え方であると思います。次の例を考えてみましょう。 ただし、線形代数の基礎知識を仮定させていただきますので、 もしわからなければ、飛ばしてください。

(例3)
GL(n、R)をn次で成分を実数とする正則行列の集合とします。 正則行列とはいわゆる逆行列を持つ行列です。
これは行列の掛け算で群を成します。 このGL(n、R)はn次元の数ベクトル空間Rnにm(A、x)=Axで作用します。
(A∈GL(n、R)、x∈Rn)この作用の軌道はRn−{0}と{0}の2つです。

(証明)
まず、GL(n、R)が群をなすことは簡単ですので、皆さんに任せましょう。 (これは高校生諸君でもできると思いますので、トライしてみてください)
また、A0=0ですから、0を含む軌道は{0}です。
またxを0でないベクトルとしますと、x=x1として、 Rnの基底(これは座標を一般化した概念です) x1、x2、・・・・xnを作ることができますが、 これらを列ベクトルとして並べた行列はGL(n、R)の元ですので、それを改めてAと書きます。
つまりA=(x1、x2、・・・・xn)です。
さて、基本ベクトルα1を第一成分が1であとは皆0のn次のベクトルとします。 (2次元の場合の基本ベクトルは(1、0)と(0、1)でこれは数学Bの教科書に 載っているかもしれません)
これは行列Aの第1列の成分をいっせいに取り出すベクトルで あることが計算からわかります。すなわち、Aα1=x1=xです。
よって軌道の定義からα1の軌道は0でないベクトルxを全て含んでいますのでRn−{0}です。 
(証明終わり)

この例でも分割の補題が正しい事がわかりますね。 もちろんRnー{0}と{0}の和集合はRnそのものですからこの例の作用による同値関係は Rnを2つのG−軌道(すなわち同値類)に分割している事がわかりました。 このように軌道に分割することを軌道分解といいます。

(線形代数について)
いくつかの連立方程式というのはベクトルと行列を用いて表現する事ができます。例えば

3a+8b=23
9a+2b=33

という2つの方程式は

(39 82)(ab)=(2333)

というように書けます。
この場合は方程式の数が2つで、未知数も2つですから、 割合に構造が簡単になります。
これを一般化して、いくつかの方程式が並んでいてかつ未知数も必ずしも方程式の個数と 一致していない場合を考えて、それらをなんとか行列を用いる事で解明していこうとする 数学を線形代数といいます。
昔は高校の数学にも「1次変換」といわれる線形代数の1分野がありました。 (現在では残念ながら、やられていないようです)
さて、体が与えられると、その上にベクトル空間を考える事ができます。 実はその考えはここで紹介した群の作用の一種です。 つまり体が集合Xに作用するとき、Xを体上のベクトル空間というのです。 これについては後々、できたら紹介したいと思います。
次回は環の話に戻って、さらにリングセオリーを展開していきましょう。



NO.741 2000.2.13.WAHEIリングセオリー(14)

(環の言葉)

可換環の定義を良く見てみますと、体の定義に似ている事がわかります。 NO.699 代数方程式の代数的解法(1) で体の定義を天下り的に書いておきましたが、 我々は環の概念を学んだので、環、特に可換環の定義を用いて、 もっと体に定義を簡単にする事ができそうです。 しかし今は我々は実数や有理数、複素数の全体くらいしか体の例を知りませんから、 慎重に事を進めなければなりません。 どういうことかといいますと、環とは写像として和と積が定まった空でない集合で、 いくつかの公理を満たすものでした。 可換環の定義に体の9番目の条件、つまり、 「0でない任意の元aはax=1を満たし、このxも可換環の元でx=aとかく」 を付け加えたものを体の一般的な定義とします。 うっかりすると、どこがどう変化したのかわからないかもしれません。 最大の変化は2つの演算である和と積を写像を用いて一般化したところです。 今から可換環の言葉を用いて体を定義していきます。以下Rを可換環とします。

(定義1)

a∈RがNZD(Non-Zero-Divisor)であるとは、
Rの元xに対し、もしax=0となっていたら、x=0となるものをいう。
従ってa∈RがZD(Zero-Divisor)であるとはRの0でない元xに対しax=0となるものをいう。

(定義2)

a∈RがRのunitであるとは、
a≠0であって、ax=1なるxがR内に存在する事を言う。このxをaと書く。

少し横文字が出てきましたが、別に何でもありません。 Zeroは0ですし、Nonは否定を表す接頭語です。Divisorは割るものという意味です。 ですからNZDとは0を割っていないということです。 ZDとは0を割っているということです。
整数環を思い出してください。 0にはどんな元をかけても0ですね。つまり、整数環Zでは0はZDとなっています。
一般の可換環でも0は定義からZDです。よってどんな環も0を持つ以上、 少なくとも1つはZDを持ちます。
また、unit(ユニットと読みます)はNZDである事がわかります。やっておきましょう。
a∈RをRのunitとして、これがZDであると仮定しましょう。
すると0≠x∈Rがあって、ax=0ですがaはunitだから、aを両辺の左から掛けて 、x=0を得ますが、これはx≠0に矛盾します。よってunitはNZDです。

(補題)
a∈RをNZDとする。
このとき、ax=ayならばx=yである。但しx、y∈R

つまりaがNZDならば、あたかも数のようにaをキャンセルしてよいということです。
確かめてみますと、
ax=ayなのでa(x−y)=0でaはNZDよりx−y=0。従ってx=y
さて整数環では0でない全ての元がNZDである事がわかると思います。これを一般化します。

(定義3)
ZDが0だけの可換環を整域(integral domain)という。
すなわち、Rが整域ならば、
ab=0ならば、a=0またはb=0が成り立つ。(a、b∈R)

従って、すでに考察したように整数環Zは整域です。またRのunitの集合をU(R)で表します。 つまり、
U(R):={a∈R|aはRのunit} です。

(命題)
U(R)はRの積でアーベル群をなす。

これはいい演習になると思うので、丁寧に解いてみてください。

さて、体を定義し直しましょう。

(体の定義)
集合Fが体であるとは、Fは可換環であって、U(F)=F−{0}が成り立つものをいう。

つまり、0でない全ての元がunitとなっている可換環を体というのです。 これはNO.699 代数方程式の代数的解法(1) で書いた体を一般化したものです。 もう忘れかかっていますが、たしかあの時は数の和と積で議論していたと思います。 でも今はそれよりも明らかに広い領域にいるわけですね。だって、和と積が写像ですものねえ。
注意してほしい事は、これは体の抽象的定義ではありません。 代数学ではこれが体の一般的な定義です。 体を議論していくとGalois Theoryにたどり着く事があります。 代数方程式シリーズでも少し紹介しましたが、 分解体(拡大しきった体)の自己同型群の部分群と中間体の間に全単射な写像が存在するという 途方もなく綺麗な理論です。 その理論の中では「5次以上の代数方程式には根の公式が存在しない」という アーベルの定理も1つのコロラリーに集約され、 それは方程式の分解体の自己同型群を構造解析することで証明されます。

(再びガロアのこと)
ガロアについてはいろいろな本が出ているので、読んでみればいいと思います。
群を打ち立てたのはこのガロアですが、彼が考えたのは方程式の根の置換の集合でした。 代数方程式シリーズで集合X上の対称群S(X)について考えました。 特に例として3次の対称群をやったわけですが、 例えばある3次方程式の相異なる3つの根をα、β、γとします。 根の置換の集合というのはこの3つの根にそれぞれ1、2、3と番号をふって、 これを置き換えていく事です。つまり3次対称群そのものです。 実はn次の代数方程式の根の置換の集合をその方程式のガロア群といい、S(n)と同型です。 n≦4ならばS(n)か可解群でn≧5ならばS(n)は可解群でないことがわかるのですが、 この話はまた後でやりましょう。
ガロアは1811年に生まれて、1830年頃に没しました。 わずか20年足らずの人生でしたが、彼は写像を用いて見かけは異なる集合を 数学的に同一視するという同型の考え方を人類史上初めて行った人で、 これが現代代数学の曙です。つまり、かれは群論を創っただけでなく、 代数学の基本概念を創ったのです。 今は2000年ですから、彼が没して200年近くになりますが、 今でも(当時と比べて格段に進歩したとはいえ)ガロアの同型の考えは数学の根幹を成しています。
ここで、次の有名な命題を証明しておきましょう。

(命題)
有限整域は体である。

(証明)
有限整域というのは元の個数が有限個の整域のことです。 さて、有限整域をRとしましょう。条件から|R|<∞です。
ここで写像f:R→Rを、f(x)=axで定めます。 ただし、a≠0とします。すると、Rは整域なので、aはNZDである事がわかります。
従ってキャンセルの補題からこの写像fは単射である事がわかります。
かつ全射である事はRが有限集合である事からわかります。 (fはRからRへの写像でRは有限集合ですから単射ならば全射でもあります)
従ってこのfは全単射ですから、ax=1と対応をつけられ、Rは体である事がわかります。   (証明終わり)

(定義4)
全てのイデアルが単項イデアルである整域を単項イデアル整域 (Principal Ideal Domain)という。

単項イデアル整域のことをPIDという事にしましょう。(英訳の頭文字3つです)
0∈Rで{0}を作りますと、これはRのイデアルですが、(0)に等しい事もわかります。 復習ですが、a∈Rについてaが生成するイデアルを(a)とかいたのでした。
ちなみに(a)={ax|x∈R}です。
ところで整数環Zを考えますと、Z=(1)であることがわかります。
つまりZは1で生成されるイデアルに等しいのです。なぜなら1∈(1)だからです。

(補題)
整数環ZはPIDである。
これを証明する前に、整数についての基本性質をおさらいしておきましょう。
任意の整数は0でない整数で割り算をすると、一般に余りが出ます。 (割り切れる事ももちろんありますが、その場合でも余りは0であるとします) 式で書けば次のように書けるでしょう。
∀a∈Z、0≠b∈Zに対して a=bq+r と書けて、0≦r<bと制限すればこのrとqは一意的に決まり、 qをaをbで割ったときの商、rをその余りといいました。
ポイントはrの範囲です。この制限がなければ商が一通りに決まりません。 例えば17という整数を3で割った場合、17=3・5+2となり、 余りrの範囲が効いている以上、これ以外に17を表現する手はありません。 恐らく以上の話は数学Aか数学Tの教科書に出ているかもしれません。 この整数の基本性質を用いて補題を証明しましょう。

(補題の証明)
まず、ΩをZの任意のイデアルとしましょう。 Ω={0}の時はこれは(0)に等しいのですから問題なく単項イデアルです。
Ω≠{0}としますと、Ωの中には0でない整数bがあります。 このbが負の整数である場合もありえますが、 Ωはイデアルですからb<0の場合は−1をbにかけることで−b∈Ωですから、 Ωの中には正の整数が存在している事がわかります。
そこでΩに含まれる正の整数の中で最小のものを改めてbと書きます。 するとΩ=(b)となっている事がわかるのです。 なぜならば、b∈Ωなので(b)⊆Ωは自明です。
一方∀a∈Ωを取ってきてb≠0ですからbで割り算を実行します。 すると上に述べた整数の性質からa=bq+r(但し0≦r<b)です。
今r≠0とすると(もしr=0ならば証明は終わります)a−bq=rで a、b∈Ωですからイデアルの基本性質よりa−bq∈Ω、つまりr∈Ωとなりますが、 r<bですからbの最小性に反します。 (Ωに含まれる最小の整数をbとしているのでそれより小さいrが含まれるのは矛盾です)
よってr=0となり、a=bq∈(b)。従ってΩ⊆(b)
∴Ω=(b)          (証明終わり)

この補題の証明は理論の良い練習になると思うので自分でも手を動かしてみてください。
次回は埋め込みの原理といわれる手法について紹介して、 多項式環(The Polynomial)に入りましょう。



NO.742 2000.2.14.WAHEIリングセオリー(15)

(多項式環の原理)
Rを毎度のごとく可換環とします。 SがR上X(大文字です)を不定元とする1変数の多項式環であるとは、 RはSの部分環であってX∈Sであり、かつ∀h∈Sを取ると、 hは、
h=a0+a1X+a22+a33+ ・・・・・+annという形に 一通りに書ける事をいいます。
但しak∈R(0≦k≦n)で、nは正の整数としかつ有限であるとします。
つまり、Rの元を係数とする多項式ですが、Xのことを変数と読んでいないことに注意してください。 ここでは不定元という事にします。 しかし慣れてきたら変数といいましょう。 またSをR上の多項式環と見た場合、Rの元のことを定数といいます。 ここでSの和と積を観ておきましょう。
∀f、g∈Sに対して、
f=a0+a1X+・・・・+ann, g=b0+b1X+・・・・+bkkとします。
このfとgに対して和は係数ごとに足せばいいのです。
問題は積でこれが多少ごちゃごちゃしています。
(積) f・g:=ΣCww  (但しCw=Σaij でi+j=wで0≦i≦n、0≦j≦k、0≦w≦n+k)
シグマが2つもあってこの式のままだと良くわからないかもしれませんので、 自分で適当に3次か4次くらいの多項式を作って検証してみてください。 高校以来なじみの実数上の多項式の積に一致している事がわかると思います。
またX0=1と定めこれがSの単位元です。 (RはSの部分環ですからもちろんこの1はRの1でもあります)
この和と積でSは環となり、Sの事をR[X]と書きます。
また表現の一意性からΣakk=0⇔ak=0(∀kについて) となり 0の表現はR[X]の中ではこれしかありません。
このことからf=Σakk≠0ならば、 f=a0+a1X+・・・・+ann≠0ですから 一番右側のan≠0です。
このときfを次数nの多項式といいその最高次係数anをその多項式の主係数といます。
またn=deg(f)と書きます。(degはdegreeの略で次数という意味です)
人それぞれの趣味にもよると思うのですが0の次数を−∞と定義する方もいらっしゃいます。
でもリングセオリーシリーズでは0の次数は定義しない事とします。
さて、次の重要な命題を考えてみましょう。

(命題1)
Rが整域ならばdeg(fg)=deg(f)+deg(g)

(証明)
経験から明らかかもしれません。でもキチンと一度くらいはやっておきましょう。
f=a0+a1X+・・・・+ann, g=b0+b1X+・・・・+bkkとおきます。
最高次係数は共に0でないとし、従ってdeg(f)=n、deg(g)=kとします。
示すべきはdeg(fg)=n+kです。積の定義に従ってfとgを掛け合わせます。すると、
fg=a00+(a10+a01)X+ (a20+a11+a02)X2+・・・・+ankn+k
いまan≠0、bk≠0でRは整域ですから、ank≠0
よってfgはn+k次の多項式ということですから、題意は満たされました。   (証明終わり)

さて、次の命題も大事です。

(命題2)
U(R)=U(R[X])が正しい。(但しRは整域とする)

(証明)
RはR[X]の部分環ですからU(R)⊆U(R[X])は成り立つと思います。
問題は逆の包含関係です。 ∀f∈U(R[X])としますとunitの定義からあるgがR[X]の中に存在してfg=1です。
この両辺にdegreeを取りますと、
deg(f)+deg(g)=0です(定数のdegreeは0ですから1のdegreeは0)
さてdeg(f)とdeg(g)は共に正の整数ですからこの等式を満たすには deg(f)=deg(g)=0です。
よってfとgは次数が0ですから定数で従ってRの元です。
そしてfg=1を満たすというのですから、f∈U(R)です。    (証明終わり)

上に述べた2つの命題はRが整域でないと成り立たない事に注意してください。 (その理由を考えてみてください)

(埋め込みの原理)
RとSを可換環として、環写像m:R→Sを考えます。 もしmが単射であるならば次が成り立つ事が知られています。

(定理・・・埋め込み)
単射な環写像m:R→Sが与えられた場合、Sからある環Cへ向かって環同型gが gm=εなるように与えられる。
但しεは内部写像(inclusion map)であって、これによってRをCの部分環とみなすことができる。
まずは用語の解説です。
内部写像というのは集合Aとその部分集合Bがあって、ε:B→Aでε(a)=aなる写像のことです。
つまりBの元としてのaをAの元としてのaに移す写像です。
よくよく考えてみますと内部写像を1つ考える事と集合の部分集合を考える事は同値です。
また上の定理の文章のなかにgm=εと書いてありますが、 gmというのは写像の合成で、これはRからCへの写像ですね。
この定理を埋め込みの原理というのですが、 驚くべき事を言っていると思いませんか? といいますのも環写像mが単射というだけでRがSへ埋め込まれる(つまりRがSの部分環と見なされる) といっているのですから。
注意してほしい事はこの原理はSと環Cが環同型gで結ばれているので S〜CでSが可換な環ですからCも可換環であることがわかります。
またRがCの部分環と見なされているのですから、 当然そのCと同型なSの部分環とも見なされているということです。
この埋め込みの原理は認めて使う事にします。
次回は多項式環の言葉を考えます。




NO.743 2000.2.16.WAHEIリングセオリー(16)

(多項式環の言葉)

Rを可換環とし、R[X]を考えます。 その元はRの元を係数とする多項式でした。 ここで注意ですが、Rの元も多項式です。
∀a∈Rに対して、a=a+0X+・・・+0Xnと書けるからです。 つまり0を補うことでRの元も多項式と見なします。
また、R[X]の元を普通の多項式のようにf(X)とかきます。 f[X]のXにはRの元を代入できます。
これはあたりまえであると思うかもしれませんが、実は代入するという行為は あたりまえの事ではなく、極めて高度なことです。まずはその事から始めましょう。

(代入原理)
Rを可換環、R[X]をR上の多項式環とする。 Tを任意の可換環とし、α:R→Tを環写像とする。
このとき、環写像φt:R[X]→T(但し∀t∈T)が次の2つの性質を満たすように 一意的に決まる。

  1. φt(X)=t
  2. φt(a)=α(a) (∀a∈R)

さて、この事を考察してみます。
∀f[X]∈R[X]を取ってf(X)=a0+a1X+・・・+annとおきます。
これをφtで移してみますと、φtが環写像である事から次のようになることがわかります。
φt(f(X))=φt(a0)+φt(a1)φt(X)+・・・+φt(an)φt(Xn
さて、φtの性質から、これはさらに次のように書けます。
φt(f(X))=α(a0)+α(a1)t+・・・・+α(an)tn ・・・(*)
ところで、環写像をgとしますとg(an)=g(a)nが成り立つ事がすぐにわかります。 anはaをn個掛けたという意味です。
さて、(*)を観てみますとφtとはf(X)の係数を環写像αで動かしXには Tの元tを代入する写像である事がわかります。φtを代入射といいます。
多項式環の元の一意性からこのφtは(*)のように定めれば一意的に決まる事がわかります。 環TをRに変えて、αを恒等写像に変えたものが、我々がよく知る代入です。
つまり係数をそのままにして、XにRの元を代入することです。 それを考えれば、この代入原理というのは代入するという行為を かなり一般化したものといえるでしょう。
また、φt(f(X)):=f(t)とします。
ところで、体は整域ですので、前回確かめた2つの命題は体上 の多項式環でもそのまま成り立つ事がわかります。
ですからここでは体を係数に持つ多項式環を考えます。
kを体とし、k[X]を考えましょう。いまからこの環の構造を解明していく事を考えます。 うろ覚えですが高校の数学Aにユークリッドの補題が載っていたような気がします。

(ユークリッドの補題)
∀f、g∈k[X]とする。ただしg≠0とする。
このときf=gq+rとなるq、rがr=0か、 そうでなければdeg(g)>deg(r)が成り立つような範囲でk[X]内に一意的に決まる。

整数環はPIDである事を証明したときにこれとよく似た性質を使いました。 そのときは整数の基本定理とか書きましたが、実はあれもユークリッドの補題というのです。
ユークリッドとは人の名前で平面幾何学を創始した人です。 高校で多項式の割り算を学んだ方も多いと思いますが 、まさにこのようになっていましたね。 でもその証明は教科書に載っているか僕は忘れてしまったので、考えてみましょう。

(証明)
f=a0+a1X+・・・・+ann
g=b0+b1X+・・・・+bww
とし、共に0のならば面白くないのでan≠0、bw≠0とします。
従ってdeg(f)=n、deg(g)=wです。
n<wとなっている場合はq=0、r=fと取ればいいことがわかります。 すなわち自明なケースですね。
またdeg(f)=deg(g)=0ならばf、gは定数多項式ですから、 r=0、q=a0・b0と取ればいいことがわかります。
以下deg(f)≠0かつdeg(g)≠0としさらにdeg(f)≧deg(g)を仮定して議論を進めます。
nについての帰納法で示してみましょう。
n=0のときは仮定から問題ありません。
次数n−1以下の全ての多項式についてユークリッドの補題が正しいと仮定してみます。 方針としては次数n−1の多項式をf、gを用いて構成して、 帰納法の仮定を使えばできそうな気がします。
そこでh=f−an・bw・g・Xn-w   (bwは見ずらくて恐縮ですが、bwの逆元です)
なる多項式hを創ってやればdeg(h)=n−1である事がわかります。 (実際にfとgを代入してみてください。)
よって帰納法の仮定がこのhに使えて、 h=gq+r なるq、rが一意的に取れます。(但しr=0 or deg(r)<deg(g))
この式に上のhを代入しますと、 f−an・bw・g・Xn-w=gq+r
よって、f=g(an/bw・Xn-w+q)+r となり、 次数nのfについても正しいことがわかり、 よってユークリッドの補題が成り立つ事がわかります。 (証明終わり)

このユークリッドの補題からすぐに次のコロラリーが導かれます。

(コロラリー)
f(X)∈k[X]、α∈kとする。 もしもf(α)=0ならば(X−α)はf(X)を割り切る。

これは剰余の定理とか言われています。(この名前についてはあんまり自信がありません)
さて、既約多項式の定義をしましょう。

(定義)
f(X)∈k[X]が既約(irreducible)であるとは

  1. f(X)は定数でなく、(つまりkの元でなく、従って0でない)
  2. f(X)=g(X)h(x)と分解できたら、g(X)∈kか、 またはh(X)∈k(但しg(X)、h(X)∈k[X])
の2つを満たす事をいう。
噛み砕いていうならば、因数分解できない多項式を既約な多項式というのです。

(例)
Rを実数の集合とし、R[X]を考えます。
すると、X2+X+1は既約です。
またX2+1も既約です。
しかし複素数C上の多項式環C[X]では (X+i)(X−i)と分解できて、既約ではありません。
この例からもわかると思いますが、規約性はその環によるのです。

既約な多項式は整数では素数と同じ概念です。 このことからも、任意の多項式は既約な多項式の積として、 順序とunit倍を無視すれば一意的に書けるのです。 これを因数分解の原理といいます。

次回はまた別の話をしましょう。







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