Weekend Mathematicsコロキウム室テーマ別/37.ガロア理論の心2



コロキウム室(ガロア理論の心・その2)


NO.791 2000.4.3.WAHEIガロア理論の心(4)

(群の準同型定理とガロアの基本定理の後半)

Artin先生にガロア理論を語ってもらう前に色々準備する事があります。
Aを集合としてRをその同値関係としましょう。 このとき商集合A/Rを作ることができました。
また写像f:A→A/Rをf(a)=C(a)で定めればこれは全射でした。 これを自然な写像といいます(natural map)。
一般に写像g:A→Bを用いて集合A上に同値関係を定める事ができます。
:={(a、b)∈A×A|g(a)=g(b)}とすると、 これは明らかにA上の同値関係で、自然な写像f:A→A/Rについては〜=Rが成り立ちます。

(定理1)
Aを空でない集合、RをA上の同値関係とし、f:A→A/Rを自然な写像とする。
また写像g:A→B(B≠φ)は次の性質を満たすと仮定する。
a、b∈Aに対し、aRbならばg(a)=g(b)…(1)
このとき写像h:A/R→Bがg=hfを満たすように一意的に定まる。

(証明)
まずhがwell‐definedであることを示しましょう。
fが全射なのでA/Rの任意の元についてAの元が必ず対応しています。 ですからA/Rから元C(a)を取れて、C(a)=C(b)を仮定しましょう。 すると分割の補題からaRbですので、(1)の条件からg(a)=g(b)です。 ですからh(C(a))=h(C(b))であってhはwell-Definedであることがわかりました。
またこのhが一意的に決まることを示しましょう。
それにはhと同じ性質を満たすh´が存在したならh=h´である事を言えばいいですね。
∀C(a)∈A/Rに対しh(C(a))=h(f(a))=h´(C(a))。 よってh=h´です。従ってhはg=hfを満たすように一意的に取れました。     (証明終わり)

(補題1)
上のhに対しては次が正しい。すなわちhが単射⇔R=R

(証明)
まずhを単射と仮定してR=Rを示しましょう。
RやRは集合ですから例のごとく 「⊆」かつ「⊇」を示せば良い訳です。
上の定理の(1)はR⊆Rを表しています。 またaRbとしますと g(a)=g(b)ですからh(C(a))=h(C(b))で、 仮定からhは単射ですからC(a)=C(b)。 よってaRbです。これでR=Rがいえました。
次にR=Rを仮定してhが単射であることを示しましょう。
h(C(a))=h(C(b))はg(a)=g(b)を示していますからaRbです。 いまR=RよりaRbですからC(a)=C(b)が正しく、 hが単射であることを示しています。    (証明終わり)
このことから次のコロラリーを得ます。

(コロラリー1)
やはり上の定理のhにおいて、もしgが全射で、R=Rならば、hは全単射である。

ここでファクターグループについてやっておきましょう。 Gを群、Nをその正規部分群としたときNがG上に定める2つの同値関係 RとRは一致しました。 G/R=G/Rですが、 これをG/Nと書いてGのNによるファクターグループといいます。 すなわちG/N=G/R=G/Rです。
ちなみにこのG/Nの演算は次でうまく定まります。
aN・bN=(ab)N
この演算がwell‐Definedであることと、 この演算によってG/Nが群になることは皆さんに任せたほうがいいでしょう (これはぜひやってほしい。その際、単位元と逆元に特に注意してください)。
G/Nは群となりますから、写像f:G→G/Nはf(a)=aNで群の準同型写像になり、 全射です。これは本質的に自然な写像ですね。 このfについては環写像の時と同様、Ker(f)=Nが成り立ちます。

(定理2)
g:G→G´を群の準同型写像とし、NをGの正規部分群でKer(g)に含まれるものと仮定する。 このときh:G/N→G´なる準同型写像がh(aN)=g(a)となるように一意的に決まる。

(証明)
定理1をうまく使います。
今は同値関係としてRを採用しましょう (もちろんRでも一向に差し支えありません)。
aRbとしますと、 ab∈NですからN⊆Ker(g)に注意してg(ab)=e´ (ここでe´はG´の単位元) であって、gは準同型写像よりg(a)=g(b)が正しい。
よって定理1の(1)の条件を満たしたので、 hがh(aN)=g(a)なるように一意的に決まる。
これが準同型写像であることは、 h(aN・bN)=h((ab)N)=g(ab)=g(a)g(b)=h(aN)h(bN) であることに従います。もちろんaやbはGの任意の元です。
    (証明終わり)

(コロラリー2)
g:G→G´を群の準同型写像とする。
このときh:G/Ker(g)→G´で、∀a∈Gに対しh(aKer(g))=g(a) を満たす準同型写像が一意的に存在する。
特にG/Ker(g)〜Im(g)である。

「コロラリーって何ですか?」という質問を受けた事があります。
「コロラリー」とは「系」のことです。 つまりある結果(定理)が得られた際、そこからすぐに導かれる「副産物」といえます。 ですからコロラリーの証明は省かれるのが普通です。
僕もコロラリーの証明は暗黙のうちに皆さんに任せている事が多いです。 でも、上のコロラリー2の証明はなかなか得るところが多いのでやっておきましょう。

ところで、群の準同型写像f:G→G´において、 Ker(f):={a∈G|f(a)=e´}です。

(コロラリー2の証明)
まず、Ker(g)がGの正規部分群であることを示しましょう。
Ker(g)=Nとおきますと、∀a∈Gに対して、 aN=Naを示せばいいということですが、 一般にGを群としNをその正規部分群とすると次の補題が成り立ちます。

(補題2)
NがGの正規部分群⇔aNa⊆N(∀a∈G)
この補題をまず示しましょう。
NをGの正規部分群と仮定します。
∀α∈aNaを取ると、α=anaと書けます。
もちろんnはNの元です。 正規部分群の定義からNの元はGの全ての元と可換なので
α=ana=naa=ne=n∈N。
よってaNa⊆Nです。
逆にaNa⊆Nを仮定しましょう。
すると∀n∈Nに対して、ana=nとNの元nが取れます。
ですからan=naとなってaN⊆Na。
一方(a=aに注意して(2度逆元を取ると元に戻る)、 Nの任意の元nに対して(an(a)=nなる Nの元nも存在します。
このことから(a)n=n(a)となって aは任意だからaを改めてaと書く事ができてNa⊆aN。
よってaN=NaがGの任意の元aについて成り立ち、Nは正規部分群です。(補題の証明終わり)
さて、この補題を使うとKer(g)がGの正規部分群であることはすぐにわかります。
N=Ker(g)とおいていることに注意して、∀ana∈aNaを取ってgで移すと、
g(ana)=g(a)g(n)g(a)=g(a)eg(a)=g(a)g(a)=e。
よってana∈Nですから補題よりKer(g)=NはGの正規部分群です。
ですから定理2より準同型写像h:G/Ker(g)→G´がh(aKer(g))=g(a) を満たすように一意的に決まります。
さらにg(a)=g(b)ならばab∈Ker(g)なので補題1によりこのhは単射です。
またμ:G/Ker(g)→Im(g)をμ(aKer(g))=g(a)で定めれば これは明らかに全射ですから、μ=hに注意してhは全射です。
よってhは準同型写像で全単射ですから、G/Ker(g)〜Im(g)が成り立ちます。 (コロラリー2の証明終わり)

f:R→Sを環写像としますとR〜Sとはfが全単射になることでした。 群のレベルでも全く同じです。
すなわちf:G→G´を群の準同型写像とするとG〜G´とは fが全単射になることなのです。
それから今示したコロラリー2の事を群の準同型定理といいます。
では、いよいよArtin先生のお出ましです。皆さん、お静かに。

(ガロアの基本定理の後半…fundamental Galois theorem stage2)
前半同様にK/Fを有限次のガロア拡大とする。 A∋E⇔H∈Bをガロアの基本定理の前半で対応させた中間体と部分群とする。 この時、次が正しい。

  1. K/Eはガロア拡大で、Hはガロア群
  2. σ∈G=Gal(K/F)に対して、σ(E)⇔σHσ−と対応する。
    E/Fがガロア拡大である必要かつ十分条件はHがGの正規部分群となることである。
  3. さらにこのとき、Gal(E/F)〜G/Hが正しい。
    (注:ここで書いた「⇔」は同値という意味ではなく「対応」を表している)

(証明)

  1. (1)はすでにガロアの基本定理の前半でE=K(Gal(K/E)を示しているので、 よい(ガロア拡大とはこういう物でした。 またここではH=Gal(K/E)と取れていることに注意してください)。
  2. (2)を考える。
    τ∈Gal(K/σ(E))を取ると、 これはσ(E)の元を固定するK上自己同型なので∀σ(e)∈σ(E)に対してτ(σ(e))=σ(e) であり、よってστσ(e)=eである。
    従ってστσはEの元を固定しているK上自己同型なので、στσ∈Gal(K/E)。 これはτ∈σGal(K/E)σを意味する。
    つまりGal(K/σ(E))=σGal(K/E)σである。これで(2)が言えた。
  3. 最後の(3)を考える。
    (2)の最後の式をじっと見つめると、次がわかる。
    すなわち「σ(E)=Eならば、HはGの正規部分群となっている。これは逆も正しい」
    (正規部分群Hとは∀σ∈Gに対してσH=Hσでした。 これよりH=σHσが成り立つ事はよいでしょう。補題2を見てください。もちろん逆も然りです)。
    これにより示すべき事は 「σ(E)=Eが∀σ∈Gについて成り立つ必要かつ十分条件は体の拡大E/Fがガロアとなること」である。
    まず∀σ∈Gについてσ(E)=Eを仮定する。
    σ∈Gに対してσ´=σ|EはE上自己同型となる。
    つまりσ´の集合をG´と書くとこれは群をなすから、
    ε:G∋σ→σ´=σ|E∈G´は群の準同型写像であり、Ker(ε)=Gal(K/E)=Hが成り立つ。
    なぜならばG´の単位元はE上の恒等写像1Eであるから。
    よって群の準同型定理によってG´〜G/H。またK(G)=Fであるから (不変体の定義からこれは明らかでしょう)、
    G´⊂Gal(E/F)を考えればE(G´)=F。 よって拡大E/Fはガロアで、Gal(E/F)=G´〜G/Hがわかる
    (これはガロアの定理です。前回の内容を参照してください)。
    逆を示す。すなわちE/Fをガロアとする。
    するとガロアの定理から|Gal(E/F)|=[E:F]が正しく、 さらに|{τ:E→K|τは環写像でτ|F=1F}|≦[E:F]である。
    よってGal(E/F)⊂{τ:E→K|τは環写像でτ|F=1F}⊃G´であるが、 ⊂は等号となり、従ってσ|E∈Gal(E/F)。
    つまり、σ(E)=Eがわかる。   (証明終わり)

Artin先生どうもありがとうございました(拍手)。
Artin先生にはまた後で登場していただきます。
やはり少し高度ですね。 本当は予定を変更してガロアの基本定理の後半はやらずに、 すぐに可解群の説明に入ってしまおうかと思ったんですが、 あえて取り上げて見ることにしました。

さて、前回証明をせずに使ってしまったベクトル空間の性質 (厳密には連立方程式の性質)を証明してしまいましょう。
これは現在出版されているあらゆる線形代数の本には必ず出ていますから、 そこからそのまま抜粋します。

(補題)

体Kの元を係数とし、x、x、…xを 未知数とする連立方程式

11+a12+…a1n=0
21+a22+…a2n=0
     ……
m1+am2+…amn=0


は、n>mであれば非自明な解、つまりx…xのいずれかは0でない解をもつ。

(証明)
もしすべての係数が0ならば、 例えばx=1と取れるので、非自明解を持つ事になる。
従って以後0でない係数があると仮定する。よってa11≠0としてよい。ここで、
=ak1+ak2+…akn とおく。
さらに最初の式、L=0の両辺にa11の逆元、 a11-をかけることにより、 a11=1と仮定してよいことがわかる
(体だから、こういう事ができるわけです)。
そこで連立方程式(この連立方程式を(1)とおく)

=0
−a21=0
  …
−am1=0


を考えると、この解は元の連立方程式の解と一致している。
またこの連立方程式の2番目以降の方程式にはx、x、…xしか現れない。
そこでnに関する帰納法によりこの補題を証明する。
n−1個の未知数に関するm−1個の方程式

−a21=0
  …
−am1=0


は非自明な解、x=α、k=2、3、…n を持つと仮定してよい。
すると、 α=−Σa1dα  (2≦d≦n) とおくと、
=α、k=2、3、…nは連立方程式(1)の、 従ってもとの連立方程式の自明でない解をあたえる。   (証明終わり)

またNO.771 ガロア理論の心(2) で書いた補題2も簡単なので、証明します …その前にベクトル空間上の全ての元は基底の一次結合として一通りに書けるということは、 知っている方が多いと信じていますし、仮に知らなくても、 例えば2次元平面を考えて基本ベクトル(1,0)と(0、1)を考えればこれは基底で 、平面上の全ての元はこの基底の一次独立の形として一通りに決まる事はすぐにわかります。 だからこの事実は認めましょう。 (厳密な証明はZornの補題、あるいはそれと同等な選択公理、 整列定理を使って基底が必ず存在する事をいいます。 興味のある方は代数学の入門書などをお読みください)
まず補題2をもう一度書きます。

(補題2)

M→(a)N→(b)Kを有限次の体の拡大列とすると(従ってaもbも有限)、 [K:M]=abが正しい。
これは体の拡大に関する基本的な結果なのでぜひとも証明しておく事柄です。

(補題2の証明)

Kの一組の基底、{α、α、…α}を取ってきます。
いま[K:N]=bですから、このようにb個だけ取れるわけですね。
Kの全ての元はこのα、…αの一次結合として一意的に書けます。
すなわち、∀m∈Kは、m=狽α、(1≦s≦b)と一通りに書けます。
ここで、係数c、…cはNの元です。
[N:M]=aですから、やはりNの一組の基底、 {β、β、…β}が取れて Nの任意の元はこの基底の一次結合として一通りに書けます。 ですからc、…cはこのβ、…βの 一次結合で書けるわけです。
つまり、 c=狽SWβ、(1≦W≦a) と書けます。 ここでもちろんdSWはMの元です。
よってm∈Kはm=煤idSWβ)α= 狽SWβαです。
したがってKの全ての元はab個の元の一次結合でかかれる事がわかりました。
次元の定義から、あと示すのはこのab個の元がM上一次独立になっていることです。
SWβα=0としますと、 c=狽SWβはNの元ですから
αがN上で一次独立なので∀sについて c=0=狽SWβ
βはM上一次独立なので∀wに対して、 つまり∀s、wに対してdSW=0。
これで題意は満たされました。     (証明終わり)
この証明はそんなに複雑ではなく、一次独立や、基底の意味をしっかりと掴んでいれば、 定義に沿う証明です。

今回は内容がやや多くなったのでここまでにして、次回は可解群を定義します。 可解というのは「解く事ができる」という意味ですが、 解ける群とはいったいどんな群なのでしょうか? またそれが方程式を代数的に「解く」という事とどのように関わってくるのでしょうか? そこら辺の事情を理論化、精密化するのが次回の内容です。



NO.798 2000.4.8.WAHEI ガロア理論の心(5)

(可解群とS(n)の不可解性)

まずは次の補題からいきます。

(補題1)

H、Kを群Gに部分群とし、HK={hk|h∈H、k∈K}とおく。
このときこのHKがGに部分群であるための必要かつ十分条件はHK=KHとなることである。

(証明)

HKがGの部分群であると仮定する。
このときhk∈HKにたいして(hk)=k∈HKであるから、 あるh∈H、k∈Kが存在して、 k=h=(hk)とかける。
従ってhk=k∈KHである。
つまりHK⊆KHがいえた。
また(kh)=hなので(kh)∈HK、 よってkh∈HKとなり、KH⊆HKとなって、KH=KH。

一方HK=KHを仮定する。
すると(hk)(h=hkk =h(kk)で、 kk∈KH=HKなので、 kk=hとかける (h∈H、k∈K)。
だからh(kk)=h(h)∈HKとなって HKは確かにGの部分群。    (証明終わり)

(コロラリー1)

N、HはGの部分群とする。 もしNがGの正規部分群ならば、集合NHは必ずGの部分群。

(証明)

上の補題と正規部分群の定義に従う。    (証明終わり)

さて、次の定理は群の第二同型定理と呼ばれるものです。

(定理1)

N、HはGの部分群でNはGの正規部分群であると仮定する。
N∩HはHの正規部分群でNはNHの正規部分群であって、しかもH/N∩H〜NH/Nである。

(証明)

NがNHの正規部分群であることは全く自明。
群の準同型写像f:H→NH/Nをf(h)=hNで定めるとすぐわかるように Ker(f)=N∩Nなので前回示したようにこれはHの正規部分群である。
一方n∈N、h∈Hとすると、(nh)N=(hn)N=hNよりfは全射である。
よってNO.791 ガロア理論の心(4) のコロラリー2から、H/N∩H〜NH/Nがいえる。     (証明終わり)

さて、ここからが今回の本題です。可解群を定義しましょう。

(定義1)

Gを群とする。 このGが可解であるとはG内の部分群の列、G=G⊃G⊃…⊃G={e}において、 GL+1はGの正規部分群でかつ、 GL+1/Gがアーベル群となることを言う。

この定義からすべてのアーベル群は可解であることがわかります。次の補題2が基本的です。

(補題2)

  1. (1) f:G→G´を群の準同型写像とする。もしGが可解ならば、Gの全ての部分群は可解であり、またf(G)も可解である。
  2. (2)G内に正規部分群Nで、NとG/Nがとも可解であるにものが含まれているのならば、G自身が可解である。

(証明)

Gを可解とするとGの部分群の列G=G⊃G⊃…⊃G={e}で 上の定義を満たすものが取れる。
ここでHをGの部分群とし、H∩G=H(1≦d≦n)とすると H=H⊃H⊃…⊃H={e}となって可解の定義をみたす。
従ってGの部分群HはGが可解ならば可解である。
またG´=f(G)とおくとG´内に部分群の列が取れて可解の定義を満たすことは 第二同型定理からわかる。 これで(1)がいえた。

次に(2)を示す。
G´=G/Nとおき、f:G→G´を自然な写像とする。
まずG´内で可解の定義を満たすように部分群の列G´(1≦d≦n)が取れるが、 G=f(G´)とおくと Gの部分群の列Gは可解の定義を満たし、さらにGn=Nである。 Nも可解なのでNの部分群の列N(1≦m≦р)で定義を満たすように取れる 従ってG自身可解である。   (証明おわり)

ここでファクターグループがアーベル群になる条件を考えましょう。
a、bをGの元として [a、b]:=abaとし、これをaとbの交換子といいます。
Gの有限個の交換子の積の全体を[G、G]と書きますとこれはGの部分群となり (証明は簡単なので皆さんに任せたほうがいいでしょう)Gの交換子群といいます。

(定理2)
HをGの部分群とする。
HがGの正規部分群でかつG/Hがアーベル群であるための必要かつ十分条件はHがGの交換子群、 [G、G]を含むことである。
特に交換子群[G,G]は正規部分群である。

(証明)
HがGの正規部分群で、G/Hがアーベル群であると仮定する。
今G/Hの任意の2元A=aH、B=bHを取る。
G/Hがアーベル群である事からABA=Hである。 従ってabaH=Hなのでこれはaba∈Hを示す。
よって[G、G]⊆Hである。

逆にHをGの部分群として、H⊇[G、G]を仮定する。
a∈H、t∈Gに対してtat=tata=[t、a]a∈ [G、G]a⊆Ha=Hで あるからHは正規部分群である。
ab=ba(aab)=ba[a、b]で、 [a、b]∈[G、G]⊆Hであるから abH=ba[a、b]H=baH。
従ってA=aH、B=bHとおくとAB=aHbH=abH=baH=bHaH=BAとなって G/Hはアーベル群である。     (証明終わり)

一般にいくつかの物を並べ替えるのは2個ずつの並び替えを何回か繰り返して行えばいいわけです。 このあたりまえの事実を数学的に考察しましょう。
3次対称群S(3)の中には次のような、やや特別な元があります。 それは(1→2、2→3、3→1)です。これを長さ3の巡回置換といいます
よって長さnの巡回置換というのは1を2に2を3に…n−1をnにnを1に置換するもので n対称群には必ず含まれている事がわかるでしょう。
また長さ2の巡回置換を互換といいます。よって全ての置換は互換の積として書ける訳です。

(補題3)

n≧5としGはS(n)の部分群とする。
NはGの正規部分群でG/Nはアーベル群であると仮定せよ。
このときGが長さ3の巡回置換を全て含むならNも長さ3の巡回置換を全て含む。

(証明)

f:G→G/Nを自然な写像とする。
文字1≦a<b<c≦nを任意に取り、さらにa、b、cとは異なる2文字d、g(但しd≠g)を 1からnの範囲で取って巡回置換s=(d→b、b→c、c→d)と t=(a→c、c→g、g→a)とを考えよ。
G/Nはアーベル群なので定理2からf(t)f(s)f(t)f(s)=eである (eはもちろん単位元)。
従って(a→b、b→c、c→a)=ttsは fのカーネルであるNに含まれる。 (証明終わり)

次の定理は5次以上の代数方程式には根の公式がないというアーベルの定理と極めて密接に関係しています。

(補題…アーベル)

n≧5ならばS(n)は可解でない。

(証明)

nが5以上でしかもS(n)は可解であると仮定せよ。
G=S(n)とおきGの部分群の列Gdを可解の定義を満たすように取る。 すると補題3を用いると順番にG=G1、G2…Gnは長さ3の巡回置換を全て含むことになるが 最後のGnは{e}であるからこれは不可能である。  (証明終わり)

(ガロア理論をやりたかった理由)

ようやくガロア理論の心をある程度示す事ができました。 「ガロア理論とは?」と聞くとごくまれに 「ああ、それなら5次以上の方程式が解けないって事でしょう」という返事を受けますが、 それは大変な誤解です。 ガロア理論の真髄は前にも書いた通りですから、 これを読んだ方はキチンと答える事ができるでしょう。
さて僕は専門が可換論(commutative algebra)なのでガロア理論との関係は それほど強いとはいえませんが、 代数学を学んだと言えるためにはガロア理論を学んでいなければなりません。 従ってこのガロア理論というのは代数学の代名詞のようなものです。 ですから当然なまやさしい物ではありません。 僕がガロア理論をやりたかったのは、実はそのような事情があったのです。

(本の紹介)

ここで少し本を紹介します。

(代数構造に関する本)

M.F.Atiyah and I.G.Macdonald “Introduction to Commutative Algebra”

D.A.R.Wallace “Groups,Rings and Fields”

P.M.Cohn “An Introduction to Ring Theory”

以上に挙げた本はいずれも優れた本だと思います。 僕自身だいぶ多くを学びました。 リングセオリーシリーズは大体これらの本の内容と同じです。
”Introduction to Commutative Algebra”は今では入手は困難となっていますが、 大学の数学科の図書館に行けばあると思います。 また数学科はどこも事務の方が親切ですから、行けば何かしら対応してくれるはずです。
“Groups,Rings and Fiels“はSpringerから出版されていて、 比較的新しい本ですから容易に手に入れられると思います。 この本は代数構造といわれる群、環、体を懇切丁寧に展開する好著です。 僕が展開したものとはまた一味違った展開の仕方で読んでいて面白いです。
“An Introduction to Ring Theory“は文字どうり「リングセオリー」の入門書です。 高校生が読むのはきついと思いますが、大学の数学科の2年生程度の知識があれば読めると思います。 この本もSpringerが出しています。

(ガロア理論に関する本)
なんと言っても次の本が定番です。

Emile Artin “GALOISSE THEORIE”

実はこの本は日本語でも出版されています。その名も「ガロア理論入門」です。 出版しているのは東京図書です。 この本はArtin先生の書いた本で、 線形代数を用いて難解だったガロア理論をわかりやすく展開したすばらしい本だと思います。 さらにすごいのは高校生でも何とか読めるところでしょう。その他には

Joseph Rotman “Galois Theory”

がなかなかいい本だと思います。 現在はArtin先生のよりこちらの方がメジャーになりつつあるようです。 この本は問題を多く取り上げて、その問題のなかで定義やら命題を挙げています。 ですからこの本は読者が問題を考えなければ意味がないという事を主張しています。 その意味で極めて教育的な本といえるでしょう (不親切と思うなかれ。自分でやった方が力は付くんです)。出版はやはりSpringerです。

(発展的な本)

David Eisenbud “Commutative Algebra with a view toward algebraic geometry”

この本は800ページに達する分厚い本ですが、 その理由は理論が保証している様々な事柄に対して、 その理論が実際に作用する数学的な対象物の解析が次々と行われているからです。 また面白いのは歴史的な背景もキチンとかかれていて、かつガロア理論にも少し触れられています。

Miles Reid “Undergraduate Commutative Algebra”

この本も幾何学とリングセオリーを組み合わせたいい本だと思います。 Undergraduateと称していますがレベルは大学院並です。 出版しているのはCAMBRIDGE UNIVERSITY PRESSというところです。 この本は最近日本語訳が出たらしいですが、僕はあまり日本語訳は勧めません。

(おわりに)

ずいぶんと色々な事を述べてきました。 今、我々は結構数学の中心地にいるのかもしれません。 これから先の事柄については僕が語るよりも、皆さんが進む方がいいでしょう。 代数方程式シリーズの終わりにも同じ事を言いましたね(笑)。
いかがでしたか?これを読んだ方は、 読む前とその後では大分世界が広がったのではないでしょうか? リングセオリーシリーズの方も(20)をもって内容の方は終了とした方がいいでしょう。 実はUFDという整域があって、その話をやろうかと思ったんですが、 色々と迷った挙句、やめる事にしました。 現在はそれに関する本は多いですからね。 それからNoether環についても「少し難しいかな…」と思ってやはり他の本に譲ることにしました。




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