Weekend Mathematicsコロキウム室テーマ別/34.リングセオリー3



コロキウム室(リングセオリー・その3)


NO.747 2000.2.17.WAHEIリングセオリー(17)

(プライムイデアルとマキシマルイデアル)

整数環では小学校以来なじみの倍数や約数、 それから最大公約数や最小公倍数などの概念がありました。 それらをいくつか記号を定義して記述しましょう。 Zを整数環とします。
a、b∈Zを取り、b≠0とします。 bがaの約数である事をb|aと書きます。
つまり、b|a⇔a=cb(cはある整数)です。 またこう書いたら、自動的にaはbの倍数でもあります。 さて、これをイデアルの言葉に直すと、次のように書けます。
b|a⇔(a)⊂(b)
さて、ZはPID(単項イデアル整域)でした。 (NO.741 リングセオリー(14)参照)ですからZ内の全てのイデアルは単項イデアルです。注意。
bはaの約数ですから、イメージとしてはbの方がaよりも小さいと思う事でしょう。(実際そうです)
でもイデアルの言葉に翻訳すると、集合としては約数の生成するイデアル、 つまり(b)の方が倍数の生成するイデアル(a)よりも広くなるのです。なかなか神秘的ですね。
いくつかの整数a、b、・・・・cがあってそれらの共通の約数をa、b、・・・cの公約数といい、 公約数の中で最大のものをa、b、・・・cの最大公約数といいます。(懐かしいですね)
dがa、b、・・・・cの最大公約数であることをd=gcd(a、b、・・・c)とかきます。 gcdはgreatest common divisorの頭文字3つです。
同じくa、b、・・・cの共通の倍数を公倍数といい、その中で最小のものを最小公倍数といい、 mがa、b、・・・cの最小公倍数であることを m=lcm(a、b、・・・c)とかきます。lcmはleast common multiplierの頭文字3つです。
整数環には素数という極めて大切な整数がありました。 あらゆる整数は符号の差を除けば素数の積に順序の差を除いて一通りにかけます。 このことを整数論の基本定理といいます。
またZのunitは−1と1の2つだけです。つまりU(Z)={−1、1}です。 (unitについてはNO.741 リングセオリー(14)参照)
従って環の言葉を使えば、整数論の基本定理は、 あらゆる整数は順序とunit倍(つまり符号の差)を除いて 素数の積に一通りにかけるという事ができます。
一般的に素数pを表現する方法は2通りあります。
1つはp|ab⇒p|aまたはp|b
もう1つはpの約数は1かそれ自身 符号の差を無視すれば、2つ目の表現は、p=abと分解できたら、 必ずa∈U(Z)またはb∈U(Z)となっているとかけます。
この2通りの表し方は一般の整域では一致しないのです。

(定義1)
Ωが可換環Rのプライムイデアルであるとは、ΩはRのイデアルでΩ≠Rであって、 (つまり1がΩに入っていない)
ab∈Ωならば、a∈Ωまたはb∈Ω(a、b∈R)を満たす事をいう。

全体と一致しないイデアルを真イデアルといいます。 従ってプライムイデアルは真イデアルです。
さて、整数環Zでは素数pの生成するイデアル(p)はプライムイデアルです。 なぜなら、p≧2ですから、1は(p)には入っておらず、よって(p)≠Zです。
またab∈(p)としますと、ab=cp(c∈Z)と書けますから、 p|abで、pは素数ですからp|aまたはp|bです。 これはa∈(p)またはb∈(p)を示しています。ですから定義から (p)はプライムイデアルです。
また(0)も当然プライムイデアルですね。(プライムイデアルの定義からすぐ出てきます)

(定義2)
Rを可換環とし、Rのプライムイデアルの集合をSpecRで表す。 すなわち、SpecR={Ω|ΩはRのプライムイデアル}である。

すぐわかるようにSpecZ={(0)、(p)}です。 但し、pは素数。
一応説明しておきますと、整数環ZがPIDであることはすでに証明済みですから、 SpecZの元が単項イデアルであることはOKです。
また上で見たように(p)はプライムイデアルで、素数以外の0でないいかなる整数で生成しても、 そのイデアルはプライムイデアルにならない事は、 素数の定義とプライムイデアルの定義から明らかです。
また{0}=(0)はもちろんイデアルでプライムイデアルです。 ですからSpecZ={(0)、(p)}であることがわかります。

(定義3)
ΩがRのマキシマルイデアルであるとは、 Ωは真イデアルで、Ω⊂J⊂RなるRのイデアルJが存在しない事をいう。

つまりRの真イデアルの集合(これは集合族)で⊂を順序と 見たときにこの⊂に対して極大になっているイデアルのことです。 RはRのイデアルですから、Ωがマキシマルイデアルなら、 Ωを真に含むRのイデアルはRしかないともいえます。
(順序や極大の概念についてはNO.737 リングセオリー(12)を参照) マキシマルイデアルを日本語に訳すなら、極大イデアルと言えるでしょう。 (この言い方の方がいいかもしれませんね)
また、プライムイデアルは素イデアルといいます。 (これも、この言い方の方がいいですね。失敗したなあ)

(命題)
PID内では(0)でない素イデアルは全て極大イデアルである。

(証明)
RをPIDとし、Ωを(0)でないRの素イデアルとします
。 示すべき事はΩを真に含むRのイデアルはR自身ということです。
RはPIDですから、Ω=(a)と書けます(a∈R)。
素イデアルの定義から、(a)は真イデアルですので、Ωと(a)の間には隙間があるわけですから、 Ωに属していないRの元bが取れますね。
そこでaとbで生成されるイデアル(a、b)を考えますとこのイデアルは(a) を真に含んでいます。
つまり(a、b)⊃(a)です。RはPIDですから、やはり(a、b)も単項イデアルですので、 (a、b)=(c)と書けます(c∈R)。
ところで、a∈(c)、b∈(c)ですから(理由を考えてください)、 a=mc、b=nc(m、n∈R)であって、従ってmc∈(a)。
(a)は素イデアルですので、mかcのどちらかが(a)に入る訳ですが、 cが入ることはありません。なぜならば(c)⊃(a)だからです。
よってm∈(a)ですから、m=ka(k∈R)であって、 a=mcへ代入すると、a=(ka)c。
従ってRは整域だからaをキャンセルできて1=kc。 kc∈(c)ですから、1∈(c)。
よって、(c)=Rとなり、結局Rの素イデアルを真に含むイデアルはRですから、 PID内では(0)でない素イデアルは全て極大イデアルです。    (証明終わり)

このことから、整数環Zでは素数pで生成されるイデアル(p)は 極大イデアルである事がわかります。
この命題の証明もいい練習になると思うので、ぜひ自分でも確かめてください。

(問題)
kを体として、k[X]をk上の多項式環とします。 このときk[X]はPIDであることを証明してみてください。
(ヒント:整数環がPIDであることの証明と同じ方針でやればいいのです。 その際、生成元の何を最小に取るかを考えてください)
さて、これまで扱ってきた可換環というのは大体が有限生成イデアルを持つものでした。 ZはPIDですから、すべてのイデアルが1つの元で生成されているので、 もちろん有限生成ですし、上の問題からk[X]も同じです。 イデアルが有限生成である環というのは考えやすい環ですから、次の定義は極めて重要です。

(定義)
全てのイデアルが有限生成である環をNoether環という。(ネーター環と読みます)

従ってPIDはすべてNoether環です。 このNoether環までくると、もう環論のメインでしょう。 現在でも数多くの未解決問題を含んでいます。
このNoether環についてはここでは定義だけにしますが、後で考えてみる事にします。
Noetherというのは人の名前で、数学屋としてはもちろん、 人間としても極めて優れていたと聞きます。



NO.749 2000.2.20.WAHEIリングセオリー(18)

(体を自由に作る)
まずは、次の命題から証明しておいた方がよさそうです。

(命題1)
次の3つは同値である。

  1. Rは体
  2. Rのイデアルは(0)とRのみ
  3. Sを任意の環として、環写像f:R→Sは全て単射。

(証明)
まず(1)⇒(2)です。
ΩをRの任意のイデアルとします。 Ω=(0)はもちろんイデアルです。 ですからΩ≠(0)とします。
するとΩの中には0でない元aが取れますが、 いまRは体である事を仮定しているのでaはunitですから、 ax=1なるxがRの中に存在して、従って1∈Ωですから、Ω=Rです。
次は(2)⇒(3)を示します。
環写像f:R→Sとします。
すでに調べたようにKer(f)はRのイデアルで1はこのKer(f)の中には入っていませんから、 Ker(f)≠Rです。
よって仮定からKer(f)=(0)となり、これはfが単射であることを示しています。
最後に(3)⇒(1)を示しましょう。
体である事を言うためには0でないいかなる元もunitになっている事を言うので、 unitでない元は0しかない事を言えばいいですね。
∀a∈Rを取ってきて、これがunitでないとする。
すると(a)≠R(理由を考えてください)で、 f:R→R/(a)をf(α)=α+Ωで定めるとこれは全射であることはすぐにわかって、 かつ環写像になっています。
よって仮定から、このfは単射であって、したがって、Ker(f)={0}=(a)。 このことからa=0。   (証明終わり)

この命題は体を特徴付けています。
ちなみにRを可換環とし、そのイデアルΩによるファクターリングR/Ωを作って、 写像f:R→R/Ωを上のように定めると、これは環写像で全射でありますが、 Ker(f)=Ωが成り立ちます。(そうなるようにファクターリングを創った)
さて、幾何学ではハウスドルフ空間という考えやすい空間があります。 ここでは厳密にはやりませんけども、噛み砕いていうと、ある空間 (空間とはある種の集合です)があって、その部分空間の中に交わっていないものがあるとき、 この空間をハウスドルフ空間といいますが、一般にハウスドルフでない空間は勝手 に部分空間を2つ以上取ってくると、それらが必ず交わっていますので、考えずらいのです。
リングセオリーにもこれと似たものがあります。 つまり環の世界では極大イデアルを持たないとどうもうまくいかないのです。
幸いにして、{0}でないいかなる環も極大イデアルを必ず持ちます。 (ちなみに我々は1≠0を仮定していますから{0}という環は考えなくてすみます)

(極大イデアルの存在定理)
可換環Rは必ず極大イデアルを持つ。

(証明)
まず、集合Σを次で定めます。
Σ:={Ω|ΩはRの真イデアル}
すると、この集合は集合の包含関係「⊆」で順序集合ですが、 このΣのchainをC={Ωa}とおきます。
ただしa∈σでσは有限でも無限でもどちらでもいい集合とします。 (このσをインデックスセットといいます)ここでCに対し∪Ωaを作りますと、 これはRのイデアルになっています。 (この理由を必ず考えてください)
しかも真イデアルです。 従って∪Ωa∈Σです。
また明らかにCの全ての元をこの∪Ωaは含んでいますから、 CはΣ内で上に有界です。
従って、Zornの補題により、Σは極大元、すなわち極大イデアルを持ち、 極大イデアルの存在がいえました。   (証明終わり)

(問題)
Rを可換環とします。JをRの真イデアルとしますとRは必ずこのJを含む極大イデアルを持つ事を 示してください。
(ヒント:上の証明と同じ方針でできます。Σをどのように置くかが問題です)
さて、何はともあれ極大イデアルの存在がいえました。 これはなかなか大きいことを言っています。その大きさは後々明らかになります。

(対応定理について)
大学の数学科に入りますと、セミナーというのがあって、みんなで本を読みます。 大体外国語の本です(英語とか、ドイツ語)。 そのようないわゆる日本語でない数学の本をペラペラと読んでみますと、 実に頭に入りやすい事がわかります。 日本語というのは世界的に見ても難しい言葉なようで外国人の皆さんと話してみると、 皆口をそろえて「日本語は今まで習った語学に中で一番難しい」などといいます。
ある本で読んだのですが、日本語というのは情緒を表す言葉としては 世界第一位の品質を備えているとか。 ところが、理論を組んでいくのには、最も適さない言葉らしいのです。
まあ、ここで言葉について書いても余り意味がありませんが、 セミナーで読まれる外国語の本には、 単射であることをone-to-oneとかinjectiveとか書いています。 それはそれで、自分の趣味に合うほうを使えばいいのですが、 困った事にある本では単射を表すone-to-oneを全単射に意味でも用いているのです。 (そのように解釈しないとどうしても辻褄が合わない)
それで色々と調べていくうちに、これがまた面白い事を知りました。 数学で集合といえば、今も昔も有限集合がその本質にあります。 しかし高度に発達した現代の数学では有限集合のみでは理論体系として十分ではありません。 もちろん有限集合のみを相手にしているのなら、単射であれば自動的に全射でもありますから 単射は全て全単射と言う事になります。 そのように有限集合を相手にする場合はone-to-oneと書いて全単射を表すのです。
でも抽象化が進むにつれて全射の概念をしっかりと決める必要がでてきました。 時代と共に有限集合から無限集合へ、さらに抽象集合へと数学が移り変わるに従い、 言葉も変化したのです。
その意味ではone-to-oneを全単射の意味で使っている本は古きよき時代を思い起こさせます。 少し脱線しましたが、現在では大体単射はinjective、全射はsurjective、 全単射はbijectiveとしている本が多いみたいです。

(対応定理)
この対応定理というのは本によってその表現が様々ですが、 次のように書いている本を見つけました。

The map φ‐:{ideals of A/Ω}→{ideals of A containing Ω}  is a one-to-one correspondence.

その本は高度な予備知識を仮定していますので、 これだけ書かれても意味がわからないと思いますが、 この対応定理には数学的に大事な意味が隠されていますから、 丁寧にやっておかねばならないでしょう。
改めて対応定理をリングセオリーシリーズ風に書きますが、 その前に言葉を定義しておきます。

(定義)
Aを可換環、ΩをAのイデアルとするとき、写像f:A→A/Ωをf(a)=a+Ωで定めると これは全射でかつ環写像(NO.734 リングセオリー(10) を参照)でこのfを自然な写像という。
NO.734 リングセオリー(10)でA/Ωに和と積を定めました。 (まだそれがwell-definedである事はやっていませんが) それでA/Ωが可換環になりますのでfは環写像となるのです。
(簡単ですので是非確かめてください)
さあ、対応定理を丁寧に考察しましょう。まずは対応定理をキチンと書いておきます。
Aを可換環とし、ΩをAの真イデアルとする。 ε:A→A/Ωを自然な写像とする。
このとき次の2つの集合MとNの間には全単射な自然な写像が存在する。
M={J|JはAのイデアルでJ⊇Ω}
N={K|KはA/Ωのイデアル}
これが対応定理です。前に書いた英語の物と同値ですが、 このことからも英訳では大分基礎知識を仮定している事がわかると思います。 (でも、欲をいえば、ぜひ英語の本も読んでみてほしいのです。 数学には国境がない事がわかるかと思います)

(対応定理の証明)
MとNの間にうまく対応をつけてやればいいわけですが、 その際対応定理の文章から自然な写像を用いる事は一目瞭然ですね。
そこで自然な写像εを用いて次のように対応をつけてはいかがでしょう。
J∈Mに対しε(J)=J/Ωとすると、 εは全射の環写像ですからイデアルはイデアルに移るわけです。 (NO.735 リングセオリー(11)参照) 従ってJ/Ω∈Nです。
一方K∈Nに対しε‐(K)(Kの原像)はやはりNO.735 リングセオリー(11) によるとイデアルになっています。 しかしこれがMに入るためにはΩを含むことを言わねばなりません。 つまりΩ⊆ε‐(K)をいます。
∀b∈Ωを取ってεで移しますと0となります。 つまりε(b)=0。といいますのもΩというのは自然な写像のカーネルとなっているからです。 (そのように決めたのですが、理由を考えてみるのも悪くありません)
ところで、0はイデアルには必ず含まれていますから0∈Kです。 よってb∈ε‐(K)です。
だからΩ⊆ε‐(K)となりε‐(K)∈Mですからうまく対応がついています。
まとめてみると、
M∋J→ε(J)=J/Ω∈N
N∋K→ε‐(K)∈M です。
さらにこの対応が全単射になることを言いますがそれには ε‐(ε(J))=Jとε(ε‐(K))=Kを言えばいいわけです。
まずJ⊆ε‐(ε(J))は全く自明ですね。
逆の包含関係を示します。
∀a∈ε‐(ε(J))を取るとε(a)∈ε(J)ですから、b∈Jでε(a)=ε(b)です。
よってa+Ω=b+Ωですから分割の補題からa−b∈ΩでΩ⊆Jですから 、結局a−b∈J。よってa∈Jです。従ってJ=ε‐(ε(J))がいえました。
今度はε(ε‐(K))=Kですが、えーと・・・ε(ε‐(K))⊆Kは自明ですよね。
ですから∀α∈Kがε(ε‐(K))に入る事を言えばいいですね。
KはA/Ωのイデアルですからα=a+Ωと書けるわけです。もちろんa∈ε‐(K)です。 よってα=ε(a)∈ε(ε‐(K))。
以上からMとNの間には全単射な自然な写像が存在している事がわかりました。    (証明終わり)
最初に書いた命題をよく眺めてみますと体に中では(0)が 極大イデアルになっている事がわかります。
さらに眺めてみますと体の中ではこの(0)が唯一の極大イデアルであることもわかります。

(定義)
極大イデアルを唯一しか持たない環をローカルリング(local ring)という。

体は最も基本的なローカルリングです。 さて、今までの準備でようやく体を自由に扱う事が可能となります。

(命題2・・・体の抽象的定義)
Rを可換環とする。 ΩがRの極大イデアル⇔R/Ωは体である。

実は、もうこの命題の証明は済んでいます。 対応定理を使えばこの命題はコロラリーのようなものです。

(問題1)
対応定理を用いて、上の命題が正しいことを確かめて下さい。
(ヒント:対応定理において集合MとNを命題の条件に合わせて作ってみてください)

(問題2)
次の主張を証明してください。
「ΩがRの素イデアル⇔R/Ωは整域である」
体がようやく自由になりました。 群は対称群として抽象化され、環はファクターリングとして抽象化され、 今体も極大イデアルで割ったファクターリングとして抽象化されました。 群、環、体は代数構造と呼ばれ、代数学のなかでは基本的な考え方です。 今後は何とか21世紀までにGaloisの基本定理を証明してAbelの定理を証明していく 方向に進もうかと思います。 ですからリングセオリーは今回で一時中断して、 次回からGalois Theoryを考えてみましょう。



NO.751 2000.2.21.WAHEIリングセオリー(19)

Galois Theoryの扉を開く前に、 これまでの事を整理してもらうために問題をいくつか用意しました。
そのいくつかは代数方程式シリーズ、 これまでのリングセオリーシリーズから そのまま抜粋したものです。

(問題1)
体の定義を自分の言葉で書いてください。

(問題2)
代数方程式が代数的に解けるとはどういうことですか?

(問題3)
群の定義を自分の言葉で書いてください。

(問題4)
部分群とは何ですか?

(問題5)
2つの合同な正三角形Sの各頂点に1,2,3と番号を付けます。 この2つの正三角形Sを重ね合わせる操作をSからSへの写像と見なして、 その操作の集合は写像の合成を演算として群をなすことを確かめて下さい。

(問題6)
問題5で得られた群と3次対称群を比較してください。

(問題7)
次の命題について、自分なりに考えた事をレポートにまとめてください。
「群とは図形の対称性を記述するものである」

(問題8)
環の定義を自分の言葉で書いてください。

(問題9)
f:R→Sが環同型であれば、その逆写像f‐:S→Rも環同型であることを確かめて下さい。 (これは少し高級です)

(問題10)
Qを有理数の全体とします。このとき写像f:Q→Qが環写像ならばfはQ上の恒等写像である事を示してください。 (これも少し高級。)

(問題11)
Rを可換環としAとBをRの2つのイデアルとしますと、 その共通部分A∩BもRのイデアルであることを確かめて下さい。

(問題12)
Rを可換環としXをその空でない部分集合とします。
このときA:={a∈R|∀x∈Xに対しxa=0}はRのイデアルであることを確かめて下さい。

(問題13)
kを体とします。このときk[X]はPIDである事を証明してください。

(問題14)
代入原理について思った事をレポートに書いてみてください。

(問題15)
Rを可換環とします。 a∈Rがベキ零元(nilpotent element)であるとはある正の数nについて an=0となるものを言いますが、これはZDである事をうまくnを取る事で証明してください。

(問題16)
Rを可換環とします。SがRの積閉集合であるとはSは空でないRの部分集合で
∀s、s’∈S⇒ss’∈Sでかつ1∈Sを満たす事を言います。
このときRとSの直積集合R×Sに関係〜を次で定めます。
(a、s)〜(a’、s’)⇔t(sa’−s’a)=0 (tはあるSの元)
この〜はR×S上の同値関係である事を確かめて下さい。 (計算力が必要です)

(問題17)
Zを整数環とします。
pを素数とするとき、ファクターリングZ/(p)は体である事を示してください。

(問題18)
RとSを可換環とし、f:R→Sを環写像とします。
このときΩがSの素イデアルならばそのfによる原像f‐(Ω)はRの素イデアルであること を示してください。

ざっと18問ありますが、僕は与えられた問題を正確に早くこなす能力だけが 数学の能力であるとは思っていませんから、 自分のペースでやってくださって全く結構です。
また別に問題1から順を追って進まなくてもいいようにしてあります。 自分が興味を持った問題からやってもいいし、最初からやってももちろん構いません



NO.760 2000.2.25.WAHEIリングセオリー(20)

今後の理論のために必要な事を多少準備します。

(準同型定理)
f:R→Sを環写像とします。ΩをRのイデアルとし、Ker(f)⊇Ωを仮定します。 また、ε:R→R/Ωをε(a)=a+Ωで定めますと、これは環写像で、かつ全射でした。 (NO.749 リングセオリー(18)参照)
このとき、環写像g:R/Ω→Sがgε=fを満たすように一意的に決まります。

(証明)
まず、上のように定めた写像gがwell-definedなことは、 a+Ω=b+Ω を仮定すれば、a−b∈Ωですから、Ω⊆Ker(f)を考えれば、a−b∈Ker(f)で、 よってf(a−b)=0。
fが環写像である事を考えれば、f(a)−f(b)=0ですので、 f(a)=f(b)。
これはgがwell-definedである事を示します。
また、このgが一意的に決まる事は、gと同じ性質を満たすg’が存在したとして g=g’を示せばいいのです。しかし、これはfが与えられている以上、自明です。
最後に、gが環写像である事を観ておきましょう。
g((a+Ω)+(b+Ω))=g((a+b)+Ω) =f(a+b)=f(a)+f(b)=g(a+Ω)+g(b+Ω)より、和はOK。
g((a+Ω)(b+Ω))=g((ab)+Ω)=f(ab) =f(a)f(b)=g(a+Ω)g(b+Ω)より、積もOK.
ですから、1も1へ移ります。よって、gは環写像です。   (証明終わり)

この結果を準同型定理といいます。この定理から、直ちに次の、極めて有意義な結果を得ます。

(第一同型定理)
上と同じ仮定の元に、f:R→Sが全射ならば、R/Ω〜Sが正しい。

(証明)
準同型定理から、環写像g:R/Ω→Sがgε=fを満たすように一意的に取れます。 このgが全単射である事を示せばいいことになります。
まず、これが全射であることは、fが全射である事に従います。 (これについては下の補題を見てください)
また、単射である事は、Ker(g)={0}を示せばよいので、∀a+Ω∈Ker(g)を取りますと、 カーネルの定義からg(a+Ω)=0.
ところで、g(a+Ω)=f(a)なので、0=f(a)で、 環写像の性質からa=0。よって、Ker(g)={0}がわかります。   (証明終わり)

この他にも第2、第3同型定理がありますが、 それらはこの第一同型定理から芋ずる式にでてきますので、 ここでは特にやりませんけども、機会があれば、そのつど紹介しましょう。

(補題)
f:A→Bとg:B→Cをそれぞれ写像とします。
すると、Bが共通ですのでその合成gfが作れます。このとき、次が成り立ちます。
gfが全射ならば、gが全射。

(証明)
gfが全射なので、Cの任意の元に対して、Aの元が対応します。 Aの元はfによってBへ移されていますから、結局gが全射という事になります。 (証明終わり)
また、次も成り立ちます。

(補題2)
上と同じfとgについて、その合成gfが単射ならば、fが単射。
これについては簡単ですので確かめてみてください



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