Weekend Mathematicsコロキウム室/NO.171

コロキウム室



NO.1408 2003.9.5.Junkoビュッフォンの針の実験(6)

FLASH ActionScriptを使ったシミュレーションを作ってみました。



NO.1409 2003.9.10.水の流れ不定方程式

第125回数学的な応募問題

太郎さんは、先日「中尾」さんから、 「楕円曲線の整数点」の問題を頂きました。それで、許諾を得て、今回の問題にしました。

問題1: 不定方程式x2-3y4=1の整数解(x,y)を|x|,|y|<= 10の範囲で探しなさい。 計算機が使用可能なら、|x|,|y|<= 100の範囲まで広げると、どうなりますか?

問題2: 不定方程式x2-3y4=1の整数解(x,y)は、Q1で求めたものに限ることを示しなさい。

問題3: 不定方程式x2-3y4=1の有理数解(x,y)で、整数解ではないものを、少なくとも1個見つけなさい。

問題4:不定方程式x2-3y4=1の有理数解(x,y)は無数に存在することを示しなさい。




NO.1410 2003.9.27.DDT単射と全射(4)

1.NO.1343 単射と全射(1)の状況
wasmathさんの仰るとおり、集合論における1対1写像,上への写像と、圏論の単射,全射の概念は本来別物です。 そうなのですが、

  @ 圏論はふつう使わない.
  A 単射,全射という用語は、現れたとしてふつう集合論の内部.
  B 圏の射に少しでも近い道具立ては、ふつう集合論の写像しかない.

という状況から(もちろん専門職の方々は除きます)、どうせ写像しか使わんのだから、 用語を流用してしまえという安易な気持ちで、NO.1343を書きましたが、wasmathさんの仰るとおりです。

2.得意の言い訳
で、NO.1343をどういう気持ちで書いたかというと、 NO.1348を引用すれば、

「1対1写像」や「上への写像」のように集合の要素に依存するかに思える概念が、 「単射」や「全射」といった 集合(object)と写像(morphism)のみに依存する概念として規定できる ということです。 これはごく一部ですが、本質を抽象して枠組みだけで論じられるところが圏論の威力と魅力だと言えます。


枠組みだけで論じられるところが圏論の威力と魅力なのは、素人の正直な思いとしては、 じつは不気味です。集合の要素に依存するかに思える概念が、 集合(object)と写像(morphism)のみに依存する概念として規定できる からです。どうして集合と写像のみに依存して規定できるのか?、その具体的なメカニズムを知りたい!、 というのが、私と私の友人のそもそもの動機でした。でもそこに踏み込むのは、 やっぱり本末転倒なんでしょうか?
以下NO.1343の私なりの解答を述べます。大学時代に数学科でもないくせに、 初めて圏論を相手にするということで、集合の要素への依存をできるだけ排除する方針で、 苦心惨憺の結果です。そのぶん素人っぽいです。

問1.
像と逆像を使った、単射,全射の定義。

単射の定義
f:X→Y,y∈f(X)とする。f-1(y)={x}のとき、fを単射という。 ここで{x}⊂Xは、要素がxのみの1点集合を表わす。

全射の定義
f:X→Yとする。f(X)=Yのとき、fを全射という。

問2.

定理1.

  (1) fが単射 ⇔ 左逆写像がある。
  (2) fが全射 ⇔ 右逆写像がある。

の証明。証明のために次の簡単な補題と定義を示す。

補題1.
f:X→Y,y1とy2∈Yとする。y1≠ y2なら、 f-1(y1)∩f-1(y2)=φが成り立つ。

[証明]
f-1(y1)∩f-1(y2)≠φを仮定すると、 図-1より、共通分の1点から2本の対応の矢がたち、fは写像でなくなるので、これは不可。 従ってf-1(y1)∩f-1(y2)=φが必要。



従って図-2に示すような、写像の標準分解が成り立つ。

定義7.写像の標準分解(超大雑把な定義)



定理1.の証明
  (1) fが単射 ⇔ 左逆写像がある。

[証明]
  左逆写像がある ⇒ fは単射
f:X→Y,rf=IdXとなる r:Y→Xが存在するとする。 rfの標準分解を図-3に示す。



もしf-1(y)が1点集合でないとすると、図-3に示したように、 y∈f(X)において2本以上の-1(y)への対応の矢がたつ。 何故なら、rの定義よりr(y)=Idx(f-1(y))=f-1(y)だから。 rは写像でなくなるので、これは不可。従ってf-1(y)は1点集合が必要。よってfは単射。

fが単射 ⇒ 左逆写像がある
もしfが双射なら、rとしてf-1をとれば良いことはあきらか。 ここでf-1は、fが双射だった場合のfの逆写像で、f-1はfについて一意に定まる。 そこで、値域をYからf(X)に移行することによって、fから得られる写像、

    f':X→f(X)(f':x |→ f(x))

を定義する。f'はfの値域をf(X)に狭めただけのもので(これは勝手にできる)、明らかに全射。 またfはもともと単射だったから、f'は双射となり、逆写像、

    f'-1:f(X)→X

が存在する。f'-1f'=Idxは明らかだが、 f'-1f=Idxもほぼ自明である(図-4)。

図-4では、f(X)とY−f(X)とが互いに素な集合なので、団子状に分離して書いた。
f'-1はf'について一意に定まり、f'はfから一意に定まるから、 結局f(X)上でf'-1f=Idxを満たすf'-1:f(X)→Xは、fから一意に定まる。 よってY上でrf=Idxを満たすr:Y→Xは、f(X)ではf'-1に一致しなければならない。 つまりf'-1の定義域をYまで延長してやったものが、求めるrだ。 ところがこの延長は、任意に行って良い。実際図-4より、 f(X)からYへの定義域の延長部分Y−f(X)に、fによってXから写像してくるXの像はない。よって、

    g:Y−f(X) → X

をY−f(X)からXへの任意の写像gとして、

    r=f'-1∪g

とすれば、

    rf=(f'-1∪g)f =(f'-1f)∪(gf) =(f'-1f)∪φ =f'-1f=Idx

となり、fが単射なら左逆写像が存在する。

[証明終わり]


(2) fが全射 ⇔ 右逆写像がある。
[証明]
右逆写像がある ⇒ fは全射 f:X→Y,fs=IdYとなる s:Y→Xが存在するとする。 fはsの左逆写像になっているから、sは単射である。 fsの標準分解を図-5に示す。 fs=IdYだから図-5より、f(s(Y))=Yでなければならない。 s(Y)⊂Xだから、Y=f(s(Y))⊂f(X)。一方f(X)⊂Yは自明だから、f(X)=Y。 すなわちfは全射。

fが全射 ⇒ 右逆写像がある
fが必ずしも全射でないとして、図-5にようにsを定めると、 fsは 恒等写像Id:f(X)→f(X)となり、sはs:f(X)→X。 いまfは全射だからId=IdYであり、fが全射なら右逆写像が存在する。

[証明終わり]



問3.
右逆写像を使った、双射の特徴づけ
[解答]
言葉にするとひどく当たり前なのだけれど、こうなる。

    全射なfの右逆写像がfについて一意に定まるとき、fは双射。

なんで当たり前かといえば、fが双射なら逆写像f-1があり、 f-1f=IdX もff-1=IdYも成り立ち、 s=f-1とおけば良く、 f-1がfについて一意なのは明らかだから。それでも状況を説明すると、こうなる。
図-5より右逆写像sは、全射なfがあったときs:y|→xかつx∈f-1(y)と定義すればよいことがわかる。 このxはf-1(y)の要素でありさえすれば良いので、sは一般的には一意に定まらない。 xが強制的に唯一になるためには、f-1(y)={x}と1点集合である必要がある。これはfが単射を意味し、 fは全単射で双射。
同様に単射なfの左逆写像rがfについて一意であるためには、図-4でY−f(X)=φが必要。 このときf=f'となり、r=f'-1=f-1でfは双射。

問4.
以下を示せ。

1.単射
fが単射である条件は、
XとYとZを任意の集合,fとgとhは写像で、f:X→Y,gとh:Z→Xとして、

    fg=fh

なら必ずg=hとなること。

2.全射
fが全射である条件は、 XとYとZを任意の集合,fとgとhは写像で、f:X→Y,gとh:Y→Zとして、 gf=hf なら必ずg=hとなること。

[証明]

1.単射
XとYとZを任意の集合,fとgとhは写像で、f:X→Y,gとh:Z→Xとして、

    fg=fh

なら必ずg=hになるとする(以後、条件-1と呼ぶ)。
値域をYからf(X)に移行することによってfから得られる写像、

    f':X→f(X)

を定義する。fに対して条件-1が成立するなら、f'に対しても、 f'g=f'h ⇒ g=h が成立することは明らか。 f'は全射なので右逆写像がある。そこでZ=f(X)とし、2つの右逆写像s1とs2を(図-6)、 g=s1とh=s2おけば、

    f'g=f's1=IdZ =f's2=f'h


なので、f'g=f'hが成り立つ。 条件-1よりg=hとなり、s1=g=h=s2からs1=s2となる。 これは全射なf'の右逆写像sが、f'について一意であることを示す。 よってf'は双射。f'が双射ということは、定義からfは少なくとも単射。
逆にfが単射なら左逆写像rがあるから、
    rfg=rfh
    IdXg=IdXh
    g=h
が成り立つ。

2.全射

XとYとZを任意の集合,fとgとhは写像で、f:X→Y,gとh:Y→Zとして、

    gf=hf

なら必ずg=hになるとする(以後条件-2と呼ぶ)。 y∈f(X)とし、集合f-1(y)⊂Xの一点s(y)∈ f-1(y)からy∈Yへの写像f'を定義する (図-7)。これはfの定義域の縮小になっており、図-7と図-5を見比べれば、図-7が、 f(X) 上の右逆写像sを定義できるのは明らかである。そこでf'の定義域をs(f(X))と書く。
さらに、fに対して条件-2が成立するなら、 f'についてもgf'=hf' ⇒ g=hが成り立つのは明らか。



図-7よりf'は単射である。Z=s(f(X))とし、gf'=hf'の gとhをf'の2つの左逆写像r1と r2とする。 このとき、

    gf'=r1f' =IdZ=r2f'=hf'

なので、gf'=hf'が成り立つ。条件-2よりg=hとなり、 r1=g=h=r2からr1=r2となる。これは単射なf'の左逆写像rが、 f'について一意であることを示す。よってf'は双射。f'が双射ということは、定義からfは少なくとも全射。
逆にfが全射なら右逆写像sがあるから、

    gfs=hfs
    gIdY=hIdY
    g=h

が成り立つ。




NO.1411 2003.9.28.水の流れ自然数解

第126回数学的な応募問題

先日行われた第44回国際数学オリンピック(IMO)日本大会で、 日本選手の成績は金メダル1個、銀メダル3個 銅メダル2個でした。
また、成績上位国 1位 ブルガリア 2位 中国(満点1人) 3位 アメリカ  4位 ベトナム(満点2人) 5位 ロシア 6位 韓国 7位 ルーマニア 8位 トルコ  9位 日本と大健闘でした。
そこで、来年出場したいという意欲にある皆さんに、次のような問題を提供します。

問題1.次の等式を満たす自然数の組(a、b、c)をすべて求めよ。

    (1+1/a)×(1+1/b)×(1+1/c)=2

ただし、1/aはaの逆数のことです。

問題2.次の等式を満たす自然数の組 (a、b)は存在しないことを示しなさい。

    a−2b=0








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