Weekend Mathematicsコロキウム室テーマ別/33.代数方程式の代数的解法2



コロキウム室(代数方程式の代数的解法・その2)


NO.708 2000.1.3.WAHEI代数方程式の代数的解法(6)

part 5

ここでは少し気分を変えて、「無限について」少し真剣に考えてみましょう。
実際問題として、この世で無限を「見た」人はいるでしょうか?答えはノーです。 (しかし、3歳の時に全盲になったある人は4次元を見ることができるそうです)
でも、無限を「観た」人達は意外と多いです。 我々も数学をやっている以上、この無限からは逃げることはできません。 無限を考えなければ自然数ですら考えることはできません。 自然数は無限にあるのですから。
無限という概念は実際にいろいろなパラドックスを起こす厄介なものですから、きち んと制御しておかなければなりませんが、よく挙げられるウサギとカメの話で簡単に 説明すると

「ウサギはカメの2倍の速さで走ります。ハンデをつけて、カメがトラックの中間地 点に差しかかったときにウサギが走ることとします。さてウサギがカメのスタート地 点にさしかかった時にはカメはその少し先にいるわけです。そのときのカメの位置を P(1)としましょう。ウサギがP(1)にきた時カメには相当接近していますがまだカメ には追いついていません。カメはP(2)の地点まで進んでいます。(P(1)≠P(2)です) ウサギがP(2)まできたときにはカメはP(2)より先にあるP(3)まで進んでいる。こ のように続いていくと、ウサギはカメに「無限に接近」するがカメに追いつくことは できないことになります」

何も起こらなければ実際はウサギはカメを追い抜くはずですので、こんなことは起き ていないわけです。しかし理論的に考える以上無限というのは上のようにパラドック スを起こします。高校のときに関数や数列の極限を習っ時には指導要領が「直感的に 扱う」ことを前提としているので、
A(n) → A   (n → ∞)
も頭の中にすんなりと入ったかもしれません。
しかし厳密に考えるとウサギとカメの ようにはならないのでしょうか?これは興味ある問題です。
数学には便利な言葉があります。「任意の」という言葉です。
A(n) → A  (n → ∞)
というのはnがどんどん大きくなるに従ってA(n)とAとの差が0に接近す るということですが、ウサギとカメのようにA(n)がAへ無限に接近するだけです。
つまり、A(n)−A の値がきわめて小さい数になるのですが、ピタリと0になるかは自 明ではありません。
そこでさきほど紹介した「任意の」という言葉を用いてA(n)−A が任意に小さい数αより 小さくなるとしたらどうでしょう。 どのような方向からA(n)がやってくるかはわからないので、 きわめて大きい自然数 N があってそのNより 大きいnについて
|A(n)-A|<αが成り立つと言ってはどうでしょうか?
実際A(n) → A  (n → ∞)を理論的に考えた場合このように (多少わかりにくい表現ではありますが) 書くしかないかもしれません。
コロキウム室NO.516で いわゆるε−δに関する記述を見たことがありますから、 そちらも参考のなさると多少理解が容易になるかもしれません)

このように無限という概念(無限大は数ではありません。 従って1/ ∞というのはできません)は意外と扱いが難しいということがわかります。
「理論上無限回の操作を必要とするときどうすればよいか?」
このことについても考えなければならないでしょう。つまり無限集合から、元をすべ て取り出すには一体どうすればよいでしょうか?
NO.704 part3で紹介した選択公理がその答 えを与えますが、まずは選択公理を噛み砕いた形で述べてみましょう。

(選択公理)
φでない集合が「無限個」並んでいるとする。
それぞれはφでないのでそれぞれから 元をいっせいに取り出して、なにか大きい集合をφでないように作れる。

選択公理とは上のことですが、言っていることは至極もっともなことです。 しかし注意深く扱わなければならないところは[集合が無限個ある]と言うところでしょう。
人間ができる事というのはたとえ機械の力を借りても有限までです。
しかし頭の中で考える以上、たとえ集合が無限に多くあっても空集合でなければ、 それらから元を取ってきて1つの集合にまとめてもいいですよという事をこの公理は保証しています。
ただし1つ1つの集合には1,2,3・・・というように番号が付けられるとしましょう。 (写像の言葉で訳すなら自然数との間に全単射があるということです)
この公理は公理と名前がついている以上証明はないようです。
NO.704 part3で紹介した、 Zorn’s lemmaと整列定理はこの選択公理と同値であることは証明されています。 適当な集合論の本を参考にしてみてください。
この3つ(選択公理、Zorn's lemma,整列定理)がもし認められないというこ とになれば、これまで積み重ねられてきた数学が一気に崩壊します。 この前証明されたフェルマー予想ももちろん無効になるし、 受験科目としての数学もなくなります。 世の中から、数学というものが考えられなくなるとまでいうのは言い過ぎかもしれま せんが、もし選択公理がないと、厳密には有限集合しか考えられなくなるので数その ものの体系がなくなってしまうことになりますからね。 もちろん、今話題にしている代数方程式についても処置無しということになります。 だから、やはりこの3つは代数方程式の代数的解法ともかかわってくる話題です。
選択公理が3つの中では比較的わかりやすいと思って、取り上げてみました。 整列定理もわかりやすいのですが、初めての人に説明すると、簡単なことを難しく定式化し ているという印象を与えかねませんから、ここでは取り上げないことにしました。僕 よりうまく説明できる人に譲ります。



NO.709 2000.1.4.WAHEI代数方程式の代数的解法(7)

part 6

さて、今までのことをまとめておきましょう。
任意次数かつ、任意係数の代数方程式が代数的に解けるとは根の公式を用いて解くことですが、 それを体の言葉で翻訳すると全ての根を含むような体を定義体(Qに係数を全部くっつけた体) をうまく拡大することで作れる。 またそのことと群を考えることは実は同値であり根を含む体の拡大 の列 Q⊂Q()⊂ Q(a,b,c,)など。
詳しくはNO.699 part1参照)と拡大しきった体 (例えばQ(a,b,c,)など)の自己同型群との間には全単射が存在する。
また選択公理は数学を考える上で欠かすことができない大切なものでした。 ざっとこんな感じです。
NO.706 part4の最後の方で、同値関係には触れないと書きましたが、よく考えた結果、やは り書いておくべきだろうという結論に至りました。ですので、ここでは同値関係につ いて書いた後、群についてすこし理論を展開しておきましょう。

(定義)
Aをφでない集合とする。Rが集合A上の「関係」であるとはRがAとAの直積の部分集合 であることを言う。
つまりR⊆A×Aである。特に(a,b)∈RをaRbとかく。 (∀a,b∈A)

この定義はぱっと見たときにはなんだか難しい定義のように見えるかもしれません。 しかし考えてみれば簡単です。
「関係」という以上2つ以上の物がなければなりません。
従ってAの元のペアーの集合であるA×Aを考えるのです。
そしてA上の関係といったら単にA×Aの部分集合を考えようというのです。
さて、RをA上の関係としましょう。 このRが次の3つを満たすときRをA上の「同値関係」といいます。

  1. aRa
  2. aRb⇒bRa
  3. aRbかつbRc⇒aRc (∀a,b,c∈Aについて)

1は自分は自分と関係があるということでしょう。
2は自分と他人が関係していたら他人と自分が関係しているということです。
3番目は自分と他人が関係していて、他人が第3者と関係していたら 自分もその第3者と関係していると言うことでしょう。
Rを=に変えてみても上の3つが成り立つことがわかります。 つまり=は特に複素数 上の同値関係であり最もポピュラーな同値関係といえるでしょう。
≦はどうでしょうか?
これはどうやら2を満たしませんね。2≦3ですが3≦2とはなりません。 よって≦は実数上では同値関係ではありません。
(ところで、複素数では大小関係は特に考えません。 数学Bを参考にしてください。多分載っていると思います)

集合Aに少なくとも1つの同値関係が与えられるとどういう事が起こってくるのか考 察してみましょう。
集合Aを1から31までの自然数の集合として、これを1ヶ月とおきましょう。 1ヶ月は大体31日ですからね。
それから、R={(a,b)|a―bは7の倍数、つまりa―b=7n(nは適当な整数)}とおきますと、 これはA上の同値関係になります。
試しにやってみましょうか。
まずa―a=0=7×0ですからaRaです。
またaRbとしましょう。 するとRの定義からa―b=7nと書けて両辺に-1を掛けてb―a=7(-n) と書けnが整数なので(-n)も整数。よってbRa。
最後にa―b=7n,b―c=7mとおくと、 (ただしn,mは整数)2つの式を足すことでbがキャンセルされてa-b=7(n+m), よってaRcですから、RはA上の同値関係となります。

ここで1と同値関係で結ばれている元を書き出してみましょう。 まず1R1ですから、1は1と同値です、他には8, 15,22,29がA内では挙げられます。なぜかというとそれぞれから1を引いて みてください。7の倍数になっていますから、Rに入っているわけです。
今度は2と同値関係で結ばれているものを書き出すと、2,9,16,23,30です。 同じことを繰り返します。
3と同値な物は3,10,17,24,31で 4と同値な物は4,11,18,25です。 5と同値な物は5,12,19,26で6と同値な物は6,13,20、27で 7と同値な物は7、14,21,28です。 8と同値な物は1と同値な物と同じになりますからまた元に戻ることになり、 7までで打ち切られることになります。みやすく書くと、

1と同値な物={1,8,15,22,29}
2と同値な物={2,9,16,23,30}
3と同値な物={3,10,17,24,31}
4と同値な物={4,11,18,25}
5と同値な物={5,12,19,26}
6と同値な物={6,13,20,27}
7と同値な物={7,14,21,28}

となっています。はっと気が付いた人もいるでしょうが、実はこれ曜日になっていま すよね。 上から月曜日で最後が日曜日です。 同値関係を入れることで31日間に曜日 という構造が入りました。1と22はもちろん互いに異なった数ですが月曜日という 視点で見れば同一視されます。
このように数学では同値関係で結ばれたものは数学的 に同一視してよいということになります。また1〜7と同値な物をC(1)〜C(7)とかい て1〜7を含む同値類といいます。従って同じ同値類に属する2つの元はお互いに同 値関係で結ばれていることもわかります。

(定義)
RをAの同値関係とする。C(a)={x∈A|aRx}をaを含む同値類という。

C(a)がaを含むことは同値関係の定義からaRaですので明らかです。 またカレンダーの例でもわかるように集合AはC(a)によってばらばらに分割されている、つ まりお互いに共通部分のない部分集合に分けられるといえます。従ってカレンダーの 例では
A=C(1)∪C(2)∪C(3)∪C(4)∪C(5)∪C(6)∪C(7)
と書けることがわかりました。
ただし「∪」は和集合をあらわします。
よって集合Aに少なくとも1つの同値関係を与えることと集合Aを分割することは同値であるとい えます。
C(a)はパズルのピースのようのものと考えてもいいですね。
そのパズルのピースの集合をA/Rと書いてAのRのよる商集合といいます。 つまりA/R={C(a)|a∈A}です。
これはパズル(最近は5000ピースもの凄いのを見かけ ますが)を買ったときのいわば箱で、家に帰ってパズルを組み立てたらAになったと 見ることもできます。
またC(a)の元のことをC(a)の代表元といいます。よってaはC(a)の代表元です。

ここで群の話に戻ります。
集合Aに同値関係を入れることができればAをバラバラに分割できることは上の通りです。 大きいAをただ漠然と考えるよりもその部分集合である同値類C(a)を考えた方が すっきりすることがあります。
Hを群G(ただし有限群)の部分群としましょう。 このHを用いてGに2つの同値関係を入れることができます。
それぞれをR1、R2で表すことにしましょう。
R1={(a,b)|ab∈H}
R2={(a,b)|ab∈H}   (∀a,b∈G)
と定めます。ここでabはaの逆元とbの積、 abはaとbの積です。
ここで、R1による同値類とR2による同値類を考えてみましょう。 同値関係が与えられたときは必ずそ の同値類を考えます。定義により、
C1(a)={x∈G|xR1a}
C2(a)={y∈G|yR2a}
と書けます。このとき次が成り立ちます。つまり、 C1(a)=aH、C2(a)=Ha・・・・・(1)
ただしaH={ah|h∈H}、Ha={ha|h∈H}としましょう。
ここで、2つの集合が等しいとは互いの元をすべて共有するということです。 すなわち集合Aと集合Bが等しいとはA⊆BかつB⊆Aということです。 これを基に(1)を証明してみましょう。

(証明)
∀x∈C1(a)を取ってくるとaR1xより、ax∈Hなのでh∈Hを用いてax=h とかける。この両辺の左からaを掛けると
a(ax)=ah
(aa)x=ah
ex=ah
x=ah
aHの定義からah∈aHで、x=ahよりx∈aH。 従ってC1(a)⊆aHである。
一方今度はaHから任意に元をとってくる。それをyとする。 つまりy∈aHなので定義からy=ahと書ける。(ただしh∈H)
この両辺の左からaを掛けるとaa=e に注意してay=hを得る。 h∈Hよりay∈HこれはaR1yを表す。
よってy∈C1(a)なのでaH⊆C1(a)。つまりaH=C1(a)
C2(a)=Haも全く同様にできますので確かめてみてください。

さて、(1)がいえました。
Gはその部分群Hを用いることでaHまたはHaという形の同値類に分割できると いうわけです。 カレンダーの例と同様に
G=aH∪bH∪cH∪・・・・・∪dH (あるいはG=Ha∪Hb∪Hc∪・・・・・∪Hd)
と書けることがいえました。 この2つの分解は一般には一致しません。 (実はHが正規部分群という種類の部分群のとき2つの分解は一致して、そのときの分解を固有の 分解とか言うのですが、ここではこれ以上は立ち入らないことにします)
aHという形の集合は実にシンプルで考えやすい集合です。 このように抽象的な群もその部分群を用いて同値関係を定め同値類に分解してやると 結構シンプルな構造に置き換えることができます。
物事をその内部構造から解明していくという方法は数学では よく使う手段です。part6をまとめてみると、

1、集合上に同値関係を定めることにより見かけの違うものを同一視してまとめるこ とができ(例えばカレンダーと曜日)物事がすっきりする。

2、有限群Gの部分群を用いることでG上に同値関係を定める事ができGの内部構造を 具体的にaHまたはHa(a∈G)の和集合として書き出すことができる。

このようにいえるでしょう。次回はこの続きを考えてみましょう。



NO.710 2000.1.5.WAHEI代数方程式の代数的解法(8)

part 7

ここではNO.709 part6の続きを少し考えてみましょう。
Gを有限群、Hをその部分群とします。前回考えたようにこのHを用いてGをaH(または Ha)の和集合として表すことができます。
G=aH∪bH∪cH∪・・・・・・・∪dH ・・・・・・(1)
としましょう。ただしa、b、c、dはすべてGの元です。
ここで集合Aの元の個数を|A|(これは個数なので当然0以上の整数です)で書くことにします。 例えば3次対称群S(3)の場合、|S(3)|=6です。(n次対称群をS(n)と書きます)この とき次が成り立ちます。
|aH|=|H|
なぜかというと、まず集合の元の個数が等しいということはNO.702 part2でも考えたように その2つの集合の間に全単射があるということですのでaHとHの間にうまく全単射な 写像を定めることを考えます。
fをHからaHへの写像としましょう。
∀h∈Hを取ってf(h)=ahと定めてはどうでしょうか?
aHの形は前回紹介したようにGの元aとHの元との積で考えていますのでf(h)はaHの元です。 またその他の写像の定義を満た していますのでこのfは写像になることはOKです。
またこれが単射になることは、 ah=akとすると、(h、k∈H)両辺左からa‐を掛けることでh=kとなるので単射です。
また全射になることは∀ah∈aHに対してh∈Hがその根元になっているの事に従います。
よってfは全単射ですから|aH|=|H|が示されました。
|Ha|=|H|も同様です。
ここで(1)を考えます。
(1)の場合、aH、bH,cH,・・・・dHは全てそれぞれの共通部分がφですから (NO.709 part6のカレンダーの例を参照)
|G|=|aH|+|bH|+|cH|+・・・・・+|dH| ・・・・・・(2)
となっていることがわかります。
注意してほしいところは一般に集合AとBにおいて
A∩B≠φならば|A∪B|=|A|+|B|は成り立ちません。 (∩は共通部分という意味です)
このときはAとBでダブっているところを考えないといけないからです。
さて(2)を考えます。
aH、bH,cH、・・・dHはそれぞれがパズルのピース でしたから (NO.709 part6参照)それらの個数は|G/R1|個だけあります。
(これもNO.709 part6参照。 同値関係R1による同値類がaHでした。ただしaはGの任意の元)
かつ先ほど証明したように|aH|=|H|でしたから、
|G|=|G/R1|×|H|・・・・・(3)
が成り立つことがわかります。
|G/R1|は正の整数なので(3)の意味すること は|G|は|H|の倍数であるということです。
つまり|H|は|G|を割り切ると いうのです(|H|は|G|の約数ということです)。
これはなかなか面白いことを言っています。 部分群の定義を見たときは、意味不明な定義でしたがその元の個数を 考えるとそれは母体であるGの元の個数を割り切っているということですから、これ は神秘的です。 (特に群の元の個数をその群の位数ということにしましょう)
例を挙げてみましょう。
|G|=p (ただしpは素数)
とします。このとき、Gの部分群Hの位数はGの位数の約数となっていますから、いまG の位数が素数である以上Hの位数は1かpです。
(約数が1かそれ自身ない数を素数といい、2以上とします。 1は素数の定義は満たしますが、素因数分解の一意性を守 るために素数にはしないことにします)
さて、位数1の部分群て何でしょうか?
部分群の定義のところで(NO.706 part4)述べたように、 どんな群も少なくとも2つは部分群を持ちます。 {e}とGでした。
従って位数1の部分群は{e}です。そうすると、位数 pの部分群はG自身ということになります。
このように位数が素数の群は部分群を {e}とGの2つしか持たないことがわかります。

以上のように、対称群を考えることで群を抽象的に(自由に)定義することが可能に なり、さらに部分群を追求することで群の構造が次第に明らかになりつつあります。
NO.699 part1で定義した体も「環」と「イデアル」を用いることで抽象的定義が可能となり さらに発展することになります。 (環とはいわゆる整数を一般化したものです)
そうして発展した群と体を考えることでアーベルの定理が完全に証明されることとなり、 近代代数学が幕を開けます。現在でもガロア理論は活発に発展していて、幾何学との 融合なども試みられているし、ガロア理論の先には代数的整数論、類体論などが待っ ています。
この「代数方程式の代数的解法」シリーズはNO.706 part4 までで本当に大まかにですが、ガロア理論の入り口まで述べ、 その後、群についてやや深く説明しておきました。
また選択公理やその他の2つの公理も、高校ではもちろん、大学でもあまり深 くやっていないようですので、書いておきました。 (これをやらずに数学をやることは実はできないのです)
ところで、群の理論にもまだまだ先があります。 群は幾何学でもよく現れる概念で、数学の基本パターンの1つでもあります。 このシリーズを通読し代数について興味を持たれた方がもしいらしたら、 それ相応の本を読んで自らこの先へと進んでくだされば、誠にありがたいと思います。



NO.711 2000.1.5.WAHEI代数方程式の代数的解法(9)

番外編

代数方程式シリーズを見直したときに、いろいろな大切なことをうっかり忘れている ところがあり、それについて少し付け加えてみます。
Gを群とし、a、b、x、yをGの元としましょう。このとき次が成り立ちます。

  1. ax=ay⇒x=y
  2. xb=yb⇒x=y
  3. aa=a⇒a=e  (eは単位元)
  4. ab=e⇒a=bまたはb=a
  5. (ab)=ba
  6. e=e
  7. (a=a

上の事は群の定義から簡単にわかります。また、次の面白い事実があります。

∀a∈Gについてaa=eを満たせばGはアーベル群である。

この証明も上の7つの性質と群の定義からすぐに出てきます。 確かめておいてください。
またNO.710 part7でGを有限群とし、Hをその部分群としたときに
|G|=|G/R1|×|H|・・・・・(1)
  が成り立つ事を証明しましたが、もしそうならば
|G|=|G/R2|×|H|・・・・・・(2)
も正しいのではないか? と思われた方もいらっしゃると思います。 実は全くその通りです。
つまり|G/R1|=|G/R2|が成り立ちます。証明しておきましょう。

(証明)
示すべきはG/R1とG/R2の間に全単射が存在することである。
f:G/R1 → G/R2 をf(aH)=Haで定義する。
これが写像であることを示す。
まず写像の定義1と2 (NO.702 part2参照)を満たすことは自明であるから、 (なぜか考えてみてください。でもあたりまえですよね) 調べるのは定義の3、すなわちwell-defined性である。
定義に従い、aH=bHとおく。(∀a、b∈G)
ところでe∈Hであるから、 ae=a∈aH=bHなのでa=bh(h∈H)とかける。
よってHa=H(bh)=H(h)=(Hh)b⊆Hb (なぜならばHh⊆Hなので)従ってHa⊆Hbがいえた。
Hb⊆Haも同様にして示せる。 (b∈aHからb=ahとおいて同じようにすればよい)つまりHb=Ha
すなわち根元が同じなら行き先も同じなのでfは well-definedである。よってfは写像になっている。
次にこれが全単射であることを示す。
まず単射であることは、Ha=Hbとおくと、やはりe∈Hであるから、
a∈Ha=Hbよりa=hb(h∈H)とかける。
よって (a=(hb =(b=bh=a(両辺の逆元を取った)
よってa=bh∈bHであるから、aH⊆bH。
bH⊆aHも同様。従ってfは単射。
fが全射であることは∀A∈G/R2を取ってくると、A=Ha(∀a∈G)とかけるがG/R1 の中にaHが存在しf(aH)=H(a=Haとなっている。
ゆえにfは全射でもある。これで題意は満たされた。

これ以外にも様々な証明が可能です。 しかし最も定義に則した証明はこれでしょう。 実はうまい道具を用意してもっとテクニカルに証明することができるのですが。 まあこれで、|G/R1|=|G/R2|が示されました。
これの言っていることはつまり、Gの部分群を用いて定義される同値関係は2つあったけれども それぞれによる同値類の個数、つまり商集合の個数は一致しているよということです。 ユーモラスな言い方をすると(僕はこっちのほうが好きですけれど)パズルのピースの個数は一致す るということでしょう。 (この表現についてはNO.709 part6を参照)
さて(1)と(2)から、|H|≠0ですので(どんな群も{e}とG自身を部分群 に持つので)これで割り算すると、(実数を0で割ることはできません。知らない方 がいましたら、自分で納得のいくまで考えてください。これは重要なことです)
|G|/|H|=|G/R1|=|G/R2|がわかります。 この|G/R1|(=|G/R2|)を[G:H]と書いて、GのHに関する「指数」といいます。 (この指数というのはNO.699 part1で すこし触れた複素数Cは代数的閉体であることの代数的証明 で登場します。)



NO.714 2000.1.6.Junko代数方程式の代数的解法(10)

NO.711 番外編にある、

∀a∈Gについてaa=eを満たせばGはアーベル群である。

の証明です。

∀a∈Gについてaa=e ですから、a=a- です。
従って、∀a,b∈Gについて,a=a-,b=b-より、
ab=a-・b-
=(ba)-
=ba  ・・・ba∈G より ba=(ba)-なので
よって任意の元に対して可換であることから、ア−ベル群である。



NO.721 2000.1.14.Junko代数方程式の代数的解法(11)

NO.704 代数方程式の代数的解法(3) の中にある

(定義)
AとBを共に体とする。g:A → Bが準同型写像であるとは、gは写像で次の3つを 満たすことをいう。

  1. g(a+b)=g(a)+g(b)
  2. g(ab)=g(a)g(b)
  3. g(1)=1 (ただし3において左辺の1はAの1、右辺の1はBの1)
についてです。
「3」については、「2」から導くことができます。
「2」において、a=1 とします。
g(1×b)=g(1)g(b)
g(b)=g(1)g(b)
この式から、g(1)がBにおいて単位元の役割を果たしていることがわかります。
従って、g(1)=1

同様に「1」において、a=0 とすると、
g(0+b)=g(0)+g(b)
g(b)=g(0)+g(b)
この式から、g(0)がBにおいて加法での単位元の役割を果たしていることがわかります。
従って、g(0)=0(左辺の0はAでの0、右辺の0はBでの0です。)



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