Weekend Mathematicsコロキウム室2000.1〜3/NO.83

コロキウム室



NO.722 2000.1.14.WAHEIリングセオリー(3)

まずは前回(NO.717)の補足をします。以下環と書いたら可換環とします。
集合Rを環としましょう。このとき次が成り立ちます。

  1. 0a=a0=0 (∀a∈R、0はもちろんRの0)
  2. (−a)b=a(−b)=−ab
  3. −a=(−1)a
  4. (−a)(−b)=ab
  5. a(b−c)=ab−ac
もちろんa、b、cとか1とかはRの元ですが、Rでは差をa−b=a+(−b)と定め る事に注意してください。
(これは前回、もしかしたら言わなかったかもしれません。ごめんなさい)
さて、上の5つは全て環の定義から出てきます。
特に(1)については前回少し触れました。
この5つは実にあたりまえの事をいっているのかもしれません。 しかし、もちろん我々のよく知る実数ならばあたりまえです(少し語弊があるかもしれません が)が、これが環ならばどうでしょう?
実数より広い環で成り立つかは、一応確かめなければなりませんね。 ですから確かめましょう。

まず(1)ですが、これは考えてみてください。

(2)からやりましょう。
なにを示せばいいのかというと、(−a)b+ab=0が示 せればRは和でアーベル群ですから(−a)b=−abがいえます。
a(−b)=−abも同じ要領です。
ところで、(−a)b+ab=((−a)+a)bです。
これはRの分配律を用いたのです。
括弧の中は0ですから、(1)の性質から、 0には何を掛けても0ですので、(−a)b+ab=0がいえました。
よって(−a)b=a(−b)=−abです。

(3)も(2)と同じようにやればできます。
この場合は(−1)a+a=0を示せばいいですね。

(4)を考えてみましょう。
これも(−a)(−b)−ab=0を示せばいいですね。

(2)から−ab=(−a)bです。
よって、 (−a)(−b)−ab=(−a)(−b)+(−a)b=(−a)((−b)+b)= (−a)0=0
従って(4)がいえました。

(5)は差の定義から簡単に出てきます。

これで上の5つが示されましたから、もう自由に使っていいのです。 つまり環の世界 では(可換環とするが)我々のよく知る数と同じ性質が成り立っている事がわかりま した。この5つと環の定義を総動員して、次を確かめてみてください。

f:R → Sを環写像とする。このとき

  1. f(−a)=−f(a)
  2. f(a−b)=f(a)−f(b)
が正しい。

また、環の例を少し紹介したいと思います。
R=Z×Qを整数と有理数の直積とします。
このRに次で演算を入れて見ましょう。
まず和を次で定めます。
(a、x)+(b、y)=(a+b、x+y)
但しa、bは整数でx、yは有理数です。また右辺の括弧の中の+は数の+です。
そして積を次で定めましょう。
(a、x)(b、y)=(ab、ay+bx)
やはり右辺の積は数の積、和は数の和です。
まずこれが演算になっている事はいいでしょう。
a+bは整数同士の足し算ですから やはり整数でx+yも有理数同士の掛け算なのでやはり有理数です。
ですから(a、x)+(b、y)∈Rです。
積のほうも明らかにR上の演算になっています。 またこれが環の定義を満たす事は腕力(計算力)です。 全てきちんとやっておきましょう。
(a、x)+((b、y)+(c、z))=((a、x)+(b、y))+(c、z)
はZもQも和でアーベル群だから自明。
(0、0)∈Rで∀(a、x)∈Rに対して
(a、x)+(0、0)=(0、0)+(a、x)=(a、x)はやはり自明。
よって(0、0)がRの0となっている。
(a、x)+(b、y)=(b、y)+(a、x)もZとQが和でアーベル群であること からOK。
また∀(a、x)∈Rに対して(−a、−x)∈Rで両者足すと(0、0)となる。
以上よりRは上で定めた和によってアーベル群。
((a、x)(b、y))(c、z)
(ab、ay+bx)(c、z)
((ab)c、(ab)z+c(ay+bx))
(abc、abz+cay+cbx)(a、x)((b、y)(c、z))
(a、x)(bc、bz+cy)
(a(bc)、a(bz+cy)+(bc)x)
(abc、abz+acy+cbx)

よって、結合律はOK
また
(a、x)((b、y)+(c、z))
(a、x)(b+c、y+z)
(a(b+c)、a(y+z)+(b+c)x)
(ab+ac、ay+az+bx+cx)(a、x)(b、y)+(a、x)(c、z)
(ab、ay+bx)+(ac、az+cx)
(ab+ac、ay+az+bx+cx)

よって分配律が成り立っている。
また(a、x)(b、y)=(ab、ay+bx)で
(b、y)(a、x)=(ba、bx+ay)=(ab、ay+bx)より積について可 換であるから、
((a、x)+(b、y))(c、z)=(a、x)(c、z)+(b、y)(c、z)は確かめることなく成り立つ。
さらに、(1,0)∈Rで∀(a、x)∈Rについて、
(1,0)(a、x)=(1a、1x+a0)=(a、x)
よって(1、0)がRの1となっている。 ですから、Rは環です。

この例のように環とは創ろうと思えば結構創る事ができる対象で、自分の手に触れる 事ができる貴重な数学的対象といえるでしょう。 上の例は基本的には数の和と積を用いています。 ですから、本質的には数の世界にある環といえます。 (もしかしたら上の例で計算ミスをしているかもしれません。 自分で確かめる際は注意してください)
ここで皆さんも自分で環を創ってみてください。 いろいろできるかと思います。 我々がよく知る環(整数や有理数、実数、行列など)の部分環を創ってみてもいいと思います。 部分環ならば環となりますし、(ただし母体としている環の和と積で)部分環 の定義は環の純粋な定義よりも簡単ですからね。 (従って、部分環を考える事は環論では非常に重要になってきます)

さて、ここでイデアルについて考えてみましょう。まずはイデアルの定義です。

(定義)
Ω(オメガと読みます)が環RのイデアルであるとはΩは空でないRの部分集合で次 の2つを満たす事を言う。

  1. ∀a、b∈Ωに対して、a+b∈Ωである。
  2. ∀α∈R、∀a∈Ωに対してαa∈Ωである。

イデアルの定義はたったこれだけですが、今後、このイデアルは環を構成する上で決 定的な役割を果たします。
先ほど紹介した環などはまだまだ具体的で(それゆえ優れた環ですが) 抽象化はされていないといえます。
環を例えば対称群(NO.706 代数方程式シリーズ(4)を参照)のように自由に定義するには 一体どうすればいいでしょうか?
実はこのイデアルを用いて環をもっと自由に扱う事が可能となります。

余談ですが、イデアルというのは横文字で書けばidealですが、これは英語の発 音によるとアイデアルとか言います。しかし数学ではドイツ語風にイデアルと読みま す。これを創った人がドイツ人だったのでしょうか?僕はどうもそんな気がします。
1994年に解決されたフェルマー予想の歴史でこのイデアルという概念が生まれた のだそうです。フェルマー予想についてはいろいろな本が出版されていますので興味 のある方は読んでみるといいかと思います。 (このフェルマー予想の正しい証明は現在たった1つしか知られていません)

NO.717 リングセオリー(1)では環写像fを用いて環Rの中にKer(f)を定義しました が、実はこれはRのイデアルになっています。確かめてみてください。
それから次の補題を証明しておきましょう。

(補題)
1∈Ω⇔Ω=R 但し、Rは環でΩはRのイデアルとする。

(証明)
1∈Ωを仮定する。Ωはイデアルなので∀α∈Rを取ってくると1α=α∈Ωである から、R⊆Ωである。またイデアルの定義からΩ⊆RだったのでR=Ω 逆は1∈R=Ωから自明。
イデアルの定義だけからは1∈Ωはわからないわけですが、もしイデアルが1を含め ば母体のRと一致してしまうというのです。これを用いると環Rの部分集合であるK er(f)の大きさが大体わかります。
もし1∈Ker(f)ならば、定義よりf(1)=0ですが、fは環写像なのでf (1)=1です。
よって1=0となり、環の定義(1≠0)に矛盾します。
だから、1はKer(f)に入っておらず、補題からKer(f)≠Rとなり、Ke r(f)はRの真の部分集合という事がわかります。つまりKer(f)⊂Rです。

次回はこのイデアルをじっくりと味わって、さらに環論を展開していきましょう。



NO.723 2000.1.15.Junkoリングセオリー(4)

NO.717 リングセオリー(1) の中の例1について考えてみます。

(例1)
f:C → C
を複素数から複素数への写像とする。
ただし対応はf(a+bi)=a−biとする。
また、これは環同型か?

まずこの写像が準同型写像であることを示します。
α=a+bi、β=c+di とします。

f(α)+f(β)=f(a+bi)+f(c+di)
=(a-bi)+(c-di)
=(a+c)-(b+d)i

f(α+β)=f{(a+bi)+(c+di)}
=f{(a+c)+(b+d)i}
=(a+c)-(b+d)i

これより、f(α+β)=f(α)+f(β)であることがわかります。

f(α)f(β)=f(a+bi)f(c+di)
=(a-bi)(c-di)
=(ac-bd)-(ad+bc)i

f(αβ)=f{(a+bi)(c+di)}
=f{(ac-bd)+(ad+bc)i}
=(ac-bd)-(ad+bc)i

これより、f(αβ)=f(α)f(β)であることがわかります。

全単射であることは、 f(a+bi)=a−bi より、複素平面で上下をひっくり返すということで 、厳密にやらずに許してもらいましょう。

従って、これは環同型であるといえます。





NO.724 2000.1.16.Junkoリングセオリー(5)

NO.717 リングセオリー(1) の中の

f(R)(Im(f)ともかきます。)はSの部分環となっていますが、Ker(f)はRの部分環にはなっていません。

についてです。

f(R)についてです。 NO.717 リングセオリー(1)の中にある部分環の定義に従って示していきます。

  1. R≠φ ならば、当然f(R)≠φ です。
  2. ∀a、b∈f(R)とすると、
    f(α)=a、f(β)=bなるα、β∈Rが存在する。

    fは準同型写像であるから、
    f(α+β)=f(α)+f(β)=a+b
    a+bの逆像 α+β∈R が存在するから、a+b∈f(R)

    また、f(αβ)=f(α)f(β)=ab
    abの逆像 αβ∈R が存在するから、ab∈f(R)

    更に、f(−α)=−f(α)=−a・・・(注)
    −aの逆像 −α∈R が存在するから、−a∈f(R)

  3. fは準同型写像であるから、f(1)=1
    1∈f(R)
以上により、f(R)はSの部分環となっています。

Ker(f)はRの部分環にはなっていません。
なぜなら、fは準同型写像であるから、f(1)=1≠0です。
従って、1はKer(f)の元ではありません。
単位元を持ちませんから、部分環とはいえません。

(注)については、次のNO.725にて。



NO.725 2000.1.16.Junkoリングセオリー(6)

NO.722 リングセオリー(3)の中の

f:R → Sを環写像とする。このとき

  1. f(−a)=−f(a)
  2. f(a−b)=f(a)−f(b)
が正しい。
についてです。
  1. fは準同型写像であるから、
    f(a)+f(−a)=f(a+(−a))=f(0)=0
    従って、f(−a)=−f(a)
  2. 同様に、
    f(a−b)+f(b)=f((a−b)+b)=f(a)
    f(a−b)=f(a)−f(b)




NO.726 2000.1.17.Junkoリングセオリー(7)

NO.722 リングセオリー(3)の中の

環写像fを用いて環Rの中にKer(f)を定義しました が、実はこれはRのイデアルになっています。

について確認してみます。

  1. ∀a、b∈Ker(f)とすると、 f(a)=0、f(b)=0であり、fは準同型写像だから、
    f(a+b)=f(a)+f(b)=0+0=0
    従って、a+b∈Ker(f)である。
  2. 同様に
    f(ab)=f(a)f(b)=0・0=0
    従って、ab∈Ker(f)である。

以上により、Ker(f)はRのイデアルである。



NO.727 2000.1.21.水の流れ野球(1)

第43回数学的な応募問題

太郎さんは、大の巨人ファンです。2000年の今年は長嶋監督の最後の年になるかもしれません。
是非、連勝を重ねてリーグ優勝をと願っています。
n試合野球を戦って、勝敗表を見てみます。 このとき、2連勝以上している確率a(n)について、次の問に答えてください。
ただし、お互いに戦うときの勝つ確率は互角とし、引き分けはないものとする。

問題1:
n=1、2、3のとき、2連勝以上している確率a(n)を求めよ。

問題2:
漸化式を考えて、一般の場合の確率a(n)を求めよ。



   
NO.728 2000.1.25.水の流れビデオカセットテープ(1)

皆さん! 家で、途中使ってあるビデオカセットのテープの残り何分録画出来るか 考えてことがありますか。 では、具体的に問題を提示します。
ここに、160分のビデオカセットテープがあります。 最初は内系が半径5cmで、外系の半径が15cmありました。 ここから、すでに録画済みのがあって、途中をみてみると、 外系の半径を測ったらちょうど、10cmになっていました。 ここで、

問題1:
今、もう一方の録画済みのテープの外系の半径を求めよ。勿論、同じ大きさのリールです。

問題2:
これから、最後まで録画を撮りたいのですが、何分録画可能でしょう。



NO.729 2000.1.29.Junkoビデオカセットテープ(2)

断面の面積で考えます。

問題1:
15π−5π= (10π−5π)−(xπ−5π)
これより、x=150、

問題2:
15π−5π:(10π−5π) =160:y
200:75=160:y
y=160×(75/200)=160×(3/8)=60(分)




NO.730 2000.1.30.水の流れ正2n角形(1)

(一部修正 1/31,20:00)

第44回数学的な応募問題

太郎さんは、円に内接している正2n角形を描いています。
この図形の頂点をn組のペアに分ける方法の中で、 それぞれのペアを結ぶn本の線分が互いに交わらないように分ける方法を考えてみました。
この分け方の方法をf(n)としたとき、次の問題に答えてください。
ただし、f(0)=1, f(1)=1と便宜上します。
また、n=2ときは参考に図に書いておきます。ここから、f(2)=2になっています。


問題1:
n=3,4のとき、f(n)を求めてください。

問題2:
f(n)の漸化式を作って、一般項f(n)をnで表してください。

太郎さんは、早速、正6角形や。正8角形を描いて考えてみようと思っています。



   



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