Weekend Mathematics問題/問題89



89.3つの答え

19世紀の数学者、神学者ボルツァーノの著『無限の逆説』で、以下の式が紹介されました。 正真正銘「1つの式に3つの答えがある」というものです。どう考えたらいいのでしょうか?

1−1+1−1+・・・の答え

(解法1)
1−1+1−1+・・・
(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・=0

(解法2)
1−1+1−1+・・・
1−(1−1+1−1+1−・・・)=1

(解法3)
1−1+1−1+・・・=Sとすると、
1−(1−1+1−1+1−・・・)=S
        =S
よって、1−S=S
   2S=1    よって、S=1/2
     




問題の出典


数楽プレイランド
仲田紀夫
学習研究社




答えと解説





答えと解説

解答・その1

(ペンネ−ム:杖のおじさん)

答え 答えはありません

理由
   1−1+1−1+1−1・・・・・・・= 0
項数がN個としてNが偶数の時、0となる

   1−1+1−1+1−1+1・・・・= 1
項数がN個としてNが奇数の時、1となる

N回計算した時、偶数か奇数か確率は1/2なので
   ((N/2×1)+(N/2×0))/N=1/2 です。

N回やって合計して平均を出すと1/2になります。しかし1つの式で3つの答えはありません。 条件が付かず無限大だと答えは出ないと思います。従って答えはありません。



解答・その2

(ペンネ−ム:三角定規)

無限級数は,項の順序を変えて加えてはいけない。 この禁を破った結果,3通りの異なる<解>の矛盾が導かれた。 これが最も典型的な例であり,他にも類例は数多くある

と,学生時代に習った教科書に書いてありました。

本例は「収束しない無限級数」なので,厳密には「解なし」 ((解1),(解2),(解3)はすべて誤り)が<正解>なのでしょう。

しかしながら,わたしは,(解3)に軍配を上げたいと思います。



です。左辺の和が右辺の値に収束するのは −1<r <1 に限ってですが, r→−1 の極限をとってみると

  左辺は,1−1+1−1+ … に
  右辺は,1 / 2

に近づきます。よって,厳密には「収束せず」 でも,気持ちをおおらかにもって 1 / 2 に収束 といってもそんなに罪深いことではない, がわたしの見解です。



解答・その3

(ペンネ−ム:teki)

今月の問題、解答させていただきます、と言いながら、実はよくわかんないんですよ ね〜。
問題のような数列を「振動する」と言いますが、この無限和を考えること自体が、そ もそも間違ってるんではないかと思われます。
答は「なし」っていうのが正解なような気がします。




解答・その4

(ペンネ−ム:巷の夢)

題意より、無限個目の数は−1か1の二通りあり、−1の場合は 総数の和が0となります。
又、1の場合は0+1で1となります。即ち、総数の和はある数に 決まらず(収束しません)、0と1を振動します(発散します)。
因って、この問題の合計数は決まりません。




解答・その5

(ペンネ−ム:aa)

これは、「無限の数列」を「有限の世界」で考えたことによる一種のパラドクス です。
この数列は、最初から計算をしていくと、1と0を交互に繰り返すしますが、 この値が何かを求めることそのものが無意味です。
よって、解法1,2,3のように3つの値を出すようなことをやってはいけない、 というのが答えです。
う〜ん。何か納得しないなぁ。



解答・その6

(ペンネ−ム:anik)

1−1+1−1+…は
初項1、公比−1の無限等比級数である。
公比−1なので振動する
よって解無し




解答・その7

(ペンネ−ム:k.Cognitive)

この式は「初項1、公比ー1の等比数列の和」です。
この式の第n項までの和を考えると

   1×{1−(−1)}÷(1+1)

nを∞にもっていくと上の式は発散(振動)して解が一意に求まらなくなります。n の場合わけによって問題文にあった3通りの答えがでますが、∞のかなたではどの場 合になっているかはわからないのでこの場合はこの式は発散すると考えるのが妥当で はないでしょうか。



解答・その8

(ペンネ−ム:柿本 浩)

解法1が成り立つためには 式に含まれる+1と−1の個数が等しい必要があり 式の末尾が−1で終了している事が前提となる。

しかし、無限に繰り返される元の式に「末尾」は存在しないため 解法1は成立し得ない。

解法2が成り立つためには 式に含まれる+1の個数が−1の個数よりも1つ多い必要があり 式の末尾が+1で終了している事が前提となる。
よって解法1と同様の理由で、解法2も成立し得ない。

解法1、解法2ともに、式の長さが有限である場合にしか成立し得ない理論であり 結局のところ

   1−1+1−1+・・・

この式の答えは
「取り得る値は1か0のいずれかであるが、式が無限に続くためどちらか一方に定まる事はない」
と表現するのが最も適切だと思われる。
1、0、1、0、1、0・・・ のように 1と0が交互に、そして無限に繰り返される数列の末尾にくる数字はどちら? と問うているのと同じである。

その事を踏まえて解法3を考えると
1−S=S という式は 1−(1か0のいずれか)=1か0のいずれか であり 「1という数字から1か0のどちらかを引いた答えは、1か0のどちらかになりますよ〜」 という事を表しているに過ぎず、Sについての明確な解が得られるような式ではない。



解答・その9

(ペンネ−ム:yokodon)

和に並ぶ数字の個数(中学生〜高校生以上の人なら、「項の数」で通じるでしょう )によって、場合分けが必要ですね。

(i)有限和の場合

この個数が奇数個なら解法1の値に、偶数個なら解法2の値になります。 というわけで、奇数個か偶数個かで値が変わるので、和に並ぶ数字の個数を固定す るとき、和の値をSとおく解法3の考え方は出来ないことになります。

(ii)無限和を考える場合

高校の微分積分(現在の科目区分では数学3...かな?)での、級数の部分和の極 限という考え方を使ってしまいます。
第n部分和の値を Sn とおくと、(i)の考え方と同様にして、自然数nに対し S2n = 0 、S2n+1 = 1 が容易に示せます。よって、Sn は n →∞ の極限 で収束せず、題意の和は有限確定値Sを持たないことになります。というわけで、解 法1〜3のどれも正しくないことになります。

というわけで、「1−1+1−1+・・・」の「+・・・」をどう解釈するかによ りけりと言うことになるでしょうか。



解答・その10

(ペンネ−ム:蜘蛛の巣城)

解法1が解法2の中にも使用されていて結論が異なります。 モットモラシイのは解法3ですが、これも

     S=1−S

とできるならば

     S=1−(1−S)

とも書ける筈ですが、しかし、この式は何も語っていません。 無限を扱う時には有限の範囲の思考が通用するか否かに注意を払う必要があります。 以下、念のために。

     

と置いて、数列{Sn}が n を限りなく大きくするときに収束するか発散するか、調べればよいでしょう。 すぐ見えるのは有限の範囲ならば

     S2n=0,S2n-1=1

です。
数列{Sn}の部分列{S2n} と{S2n-1} がそれぞれ異なる値に 収束するために(この辺りはε-δ を持ち出すまでもないでしょう。)数列{Sn} は発散します。 (振動と言ってよいでしょうか。)従って求められている値Sは存在しません。



解答・その11

(ペンネ−ム:SOU)

(解法1)

1−1+1−1+・・・           ・・・@
(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・   ・・・A

について。
無限級数は括弧のつけ方によって極限が異なってしまうので勝手に括弧をつけてはならない。 すなわち@式とA式は同値でない。 この解法は間違い。

(解法2)

1−1+1−1+・・・           ・・・B
1−(1−1+1−1+1−・・・)     ・・・C

について。
これはC式の括弧内を0とみなしているが、そんなことはどこにも書いていないので×。 解法1が正しかったなら解法2も正しくなりますが。。。 この解法は間違い。

(解法3)

1−1+1−1+・・・=Sとすると、

1−(1−1+1−1+1−・・・)=S
=S

よって、1−S=S
2S=1    よって、S=1/2
について。
もともと極限値が存在するかどうか分からないのにSと置いてしまっているところが×。
収束する場合は極限値は1/2として正しいが収束しないのであれば1/2は嘘。
この級数は、項比の絶対値が1以上なので極限は存在しない。
だからこの解法は間違い。 

結局いずれの解法も間違い。




解答・その12

(ペンネ−ム:浜田 明巳)

 「・・・」は非常に注意して使わなければならない記号である.
 数列の漸化式などでよく使われる
  n=1,2,3,・・・
の場合は直観的にも明らかなので,問題ないだろう(本当は「nは自然数」と書いた方がいいと思うが).
 しかし無限数列の和(級数)
  a+a+a+・・・
の場合,次のように定義される.
 この数列の部分和

    

の極限である.つまり,

    

である.
 さらに正確にいうと,極限は,大学で習うε-δ論法を使って,きちんと定義されなければならない.
 解法1の場合,
  (1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・
というように,2個をセットにして足したところに問題がある.本来,1個,1個を足していったときの極限であるはず.これは意味が違う式である.
 当然
  1−1+1−1+・・・
 =1−(1−1+1−1+1−・・・)
 =1−{(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・}
とした解法2も意味が違う式である.
 この数列の和をn=1の場合から計算していくと,
  1,0,1,0,1,0,・・・
となり,1と0が交互に出て来る.つまり一定の値に収束しない.つまり値がない訳である.よって解法3のように
  S=1−1+1−1+・・・
とおくことは出来ない.この意味で解法3は間違いである.

 この問題は,無限級数が直感的にしか考えられていなかった昔に頭を悩ませていたものである.私も無限級数を指導する際には,必ずこの例を出し,無限を直感的に扱うことは危険であると生徒を諫めている.

(蛇足)「・・・」の危険な例として,次のことを上げておこう.
 よく数列の問題として,
  1,2,3,4,・・・
  1,4,9,16,・・・
の一般項を求めよ,というタイプのものがある.
 この数列の場合,明らかにそれぞれ
  a=n
  a=n
となるであろう.しかしひねくれて考えてみれば,
  a=k(n−1)(n−2)(n−3)(n−4)+n(kは定数)
  a=k(n−1)(n−4)(n−9)(n−16)+n(kは定数)
でもいいはず.注意して問題を作らなければならないという作問者に対する戒めであろう.




解答・その13

(ペンネ−ム:Toru)

無限級数1-1+1-1+・・・・・・は収束しませんので3つの答えはどれも間違いという ことになるでしょう。
この辺のことは「解析概論」の第4章を読むとよく分かります。無限級数を無条件で、 カッコでくくったりしてはいけないということですが、収束するという条件があれば、 カッコでくくっても同じ値に収束します。
収束する場合にかぎっても、無条件で、項の順序をかえたりしてはいけないのですが、 さらに絶対収束という条件をつければ、ほぼ有限和と同様に項の順序の変更が可能に なります。
ちょっと復習をかねて、読みなおしてみました。
無限級数はなかなか美しくて、



なんていうのに出会って「すごい!」と思って、なんとかこれを自分で理解したいと 勉強した人も少なくないのではと思います。



解答・その14

(ペンネ−ム:小学名探偵)

(答え)収束しません。

1−1+1−1+・・・を級数としてとらえると、 質問は、その級数が収束するかどうか、でしょうか。
その答えは、収束しない、です。

その昔、コーシーは次のように云いました。

「級数a(1)+a(2)+a(3)+... が収束するためには、少なくとも、 一般項a(n)が限りなく小さくならなければならない。 しかし、この条件だけでは不十分で、a(n)+ a(n+1) も、 a(n)+ a(n+1)+a(n+2)も、すべて限りなく小さくならなければならない。 つまり、a(n), a(n+1), a(n+2),...という数を、a(n) から始めてどこまで加えて も、 その絶対値は、nさえうまく選んであれば、あらかじめ与えたどんな正の数をも 越えることがない、というようになっていなければならない。 逆に、これが満足されていれば、級数の収束性は保証される。」

解法1は偶数項までの和が0であることをいっているだけで、
解法2は奇数項までの和が1であることをいっているだけで、
解法3は級数が収束することを前提にした計算を行って、結果的には 偶数項までの和と奇数項までの和の平均を出しているだけで、 いずれも、級数の収束性を示すものではありません。



解答・その15

(ペンネ−ム:夜ふかしのつらいおじさん)

これは、素朴に考えて和が、1と0の間を限りなく行き来しているだけと考えます。 (このような状態を振動といいます)

 S=1−1+1−1+・・・ と置きます。 それぞれの解法は、結合の具合で和の値が変わることを示しています。

(解法1)は、S=(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・=0

(解法2)は、S= 1−(1−1+1−1+1−・・・)=1 としています。
これは括弧の中の和が、(解法1)により 0 という結果を使っていますが、適当ではありません。
S=0 という結果を用いて、S=1という異なった結果を導いています。
この括弧の付け方は(解法3)で使うべきです。この場合は、
S=1+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+・・・=1 とすべきです。

(解法3)は、S=1−(1−1+1−1+1−・・・)=1−S、 ∴ S=1/2
同じ式に対して、異なる答が出てくることは適当ではありません。 「・・・」は、限りなく1と(−1)が交互に出てくることを示しています。 こういう場合には、結合法則を使うことが良くないと考えるべきです。

さて、交換法則等も使ってみると、Sを自分の好きな値にすることができます。

(解法4)整数にするには、次のようにします。

=1+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+・・・   【結合法則】
=1+(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・      【括弧内で交換法則】
=1+1−1+1−1+・・・         (式1) 【結合法則】
=(1+1)+(−1+1)+(−1+1)+・・・      【結合法則】
=2

(式1)
=1+1+(−1+1)+(−1+1)+・・・        【結合法則】
=1+1+(1−1)+(1−1)+・・・          【交換法則】
=1+1+1−1+1−1+・・・       (式2) 【結合法則】
=(1+1+1)+(−1+1)+(−1+1)+・・・     【結合法則】
=3

(式2)に対して同様に考えると、S=4 を導くことができます。
同様の繰り返しで自分の好きな自然数を導けます。
また、次のように負の整数にもできます。

=1−1+1−1+・・・
=(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・ 【結合法則】
=(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+・・・ 【交換法則】
=−1+1−1+1−1+・・・        (式3)【結合法則】
=−1+(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・     【結合法則】
=−1

上と同様に考えると、−2、−3、・・・ と導いていくことができます。

(解法5)有理数にするには、次のようにします。
まず、分子が1の分数は、

=1−1+1−1+1−・・・
+)=  1−1+1−1+・・・ 

2S=1     【1つずらしておく】

         ∴ S=1/2

=1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+1−1・・・
=  1  −1  +1  −1  +1  −1  +1・・・
+)=    1  −1  +1  −1  +1  −1  ・・・

3S=1+2−2    +2−2    +2−2  + ・・・
=1  +(2−2) +(2−2)  +(2−2)  + ・・・
=1      【ずらして1つおき】

         ∴ S=1/3

=1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+1−1・・・
=  1    −1    +1    −1    +1・・・
=    1    −1    +1    −1    ・・・
+)=      1    −1    +1    −1  ・・・

4S=1  +2    −2    +2    −2    ・・・
=1  +(2    −2) +(2    −2)    ・・・
=1        【ずらして2つおき】

    ∴ S=1/4

以下同様です。

次に、分子が2の分数は、(式1)と普通のSを使います。
つまり一番上の式を、S=1+1−1+1−1+・・・ とします。

=1+1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+1−1・・・
=    1  −1  +1  −1  +1  −1  +1・・・
+)=      1  −1  +1  −1  +1  −1  ・・・ 

3S=1+1  +2−2    +2−2    +2−2  + ・・・
=1+1  +(2−2) +(2−2)  +(2−2)  + ・・・
=2       【ずらして1つおき】

  ∴ S=2/3

以下同様です。

(式3)を使うと、上と同様にして負の有理数も作れます。

(解法6)無理数にするには次のようにします。

例えば、Sを √2 にするには、(式1)、(式2)と(解法2)のS=0 の結果を使います。 ただし、上に書いたように、本当はこのやり方は良くありません。

2=(1−1+1−1+・・・)×(1−1+1−1+・・・)
=(式1)×(式2)
=(1+1−1+1−1+・・・)×(1+1+1−1+1−1+・・・)
=(1+S)×(2+S)
=2+3S+S×S

ここで、S=0 とすると、S2=2 となり、S=±√2 となります。

(解法7)虚数にすることも、(解法6)と同様にできます。ただし、これもペテンです。
(式3)、(式1)と(解法2)のS=0 の結果を使います。

2=(1−1+1−1+・・・)×(1−1+1−1+・・・)
=(式3)×(式1)
=(−1+1−1+1−1+・・・)×(1+1−1+1−1+・・・)
=(−1+S)×(1+S)
=−1+S×S


ここで、S=0 とすると、S2=−1 となり、S=±i となります。

(解法4)以下から言えることは、「・・・」のような場合には、 交換法則を使うことが良くないと考えるべきです。



正解者

三角定規 巷の夢 teki
夜ふかしのつらいおじさん 浜田 明巳 Toru
anik 杖のおじさん SOU
k.Cognitive 柿本 浩 yokodon
小学名探偵 aa 蜘蛛の巣城





まとめ

「答えがない」もう少し正確にいうと、「収束しない」が正しい判断です。 有限と無限をごっちゃにしてはいけません。無限の世界では、有限の世界と様相が変わります。 そこがむずかしいところであり、おもしろいところでもあります。
無限級数の値を求めるには、浜田 明巳さんが説明してくださったように、 第n項までの和(部分和)を求め、次にそのnを無限大にしたときの極限値を考えればいいわけです。 今回のケースでは、この極限値が存在しません。いわゆる「振動する」という状態になります。 極限値が存在しないのに、その値をSとおいた解法3はもっての他ということですね。

ところで、 夜ふかしのつらいおじさんのペテン師ぶり(いえ、失礼)にはびっくり。 これほど自由自在に極限値を変えられる、しかも虚数単位iまで登場させて・・・。びっくりです、さすがです。 皆さんもだまされないように気をつけましょう。





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