Weekend Mathematics/コロキウム室/NO.148
NO.1254 | 2002.8.17. | DDT | ラグラジアンの意味(3) |
ラグラジアンの意味(2)の最後で、ラグラジアンはもう、
殴られそうなくらい簡単に生まれてきたと書きました
(あくまで後知恵の小賢しさですが)。
そのためには弾性学に寄り道したほうが良いように思えます。
ここで注意すべきは、弾性学とはふつう静力学で、動力学ではないことです。
1.棒の弾性学
図-1のように、一方向に著しく長い柱のようなものを梁と呼びます。
図-1の梁の厚みを表すDを梁の深さといい、梁の全長Lに比べてじゅうぶん小さいとします。
というか、この条件が成り立ったときに長柱または梁といわれます。
梁ではD方向の材料の挙動は無視していいことがわかってます
(D/L〜0より。Lと同程度の大きさの変形しか考慮しないという近似理論)。
よって梁は1次元の構造(?)です。その変形を表すには、
の全長に沿った1個の座標xで、じゅうぶんです。梁は曲がったり、伸びたり縮んだりします。
(1)
(2)
(4)
(5)
(7)
(8)
(9)
ここでS'は、棒全体の静力学的ポテンシャル(静力学的な系のエネルギー)です。
S'を最小化すれば、(4)の棒全体の釣り合い方程式が出るはずです。
でも、S'の最小化って何でしょう?。
まず静力学における「問題を解くこと」の意味を検討しましょう。
図-4において、分布力f(x)は場所ごとに(xごとに)変わるものでした。
だから変位w(x)も場所ごとに変わります。逆に言えば、xに関する変位分布w(x)さえ定めてしまえば、
問題は解けます。実際そのとき式(3)から、応力σ(x)の分布もわかります。
およそ静力学において求めたいことは、釣り合う時の力と、釣り合う時の変位に尽きます。
σ(x)とは、棒の各部分に働く力の言い換えであり、
ε(x)=dw(x)/dxとは、棒の各部分の変位の言い換えだったことに注意して下さい。
よって(9)を最小化するとは、
(9)を最小化する関数w(x)を求めよ.
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
2.いいのかこれで?
1.でやったことは、こうまとめられます。
「連続体の静力学における棒の釣り合い方程式を、
「最小性」にこだわって導いた。その過程でラグラジアンと形式的に同等なもの
を見つけてしまった。
よってそこで見つけたラグラジアンは、「最小性」の要件を満たすので運動ポテンシャルだ」
いいのかこれで!?。
だいたい棒の静力学と質点の動力学とに、いったいどんな論理的つながりがあるというのだ!。
そりゃラグラジアンをいきなり天下りに定義されるよりもいくらか納得できるけど、
形式的対応のみに基づいてラグラジアンの形を見つけた後でもいいから、
そこからラグラジアンの意味を問うていくのが物理学の本番ではないのか?。
その通りだと思います。
しかし歴史的にはこのような事態で、
少なくとも表立ってラグラジアンの意味が問われたことはなかったのです。
もちろん[ラグラジアンの意味(1)]で述べたような哲学的意味は、
その形式的対応づけに十分すぎる程盛り込まれましたが
(なんと最終的には20世紀初頭まで続いてます)、
1.で暴力的に簡略化したような事態が歴史的には具体的に起こりました。
学生の全ての期待を裏切って・・・。何故なら、
@ラグラジアンが着想された根拠は「完全無欠の神様が造った宇宙の最小性」 へのこだわり以外にはなく,
A誰かが論理立てて導いたものでもなく,
B数理的役割以外のラグラジアンの意味が問うことは無意味
@'その存在は前提なので、運動を決定する最小量はあれば何でも良く,
A'それに気づけば良いので誰かが導く必要もなく,
B'ラグラジアンの意味は神様がつけてくれるので問う必要はない
参考文献
[1] 山崎義隆,重力と力学的世界,現代数学社
この本は力学思想史であるとともに、大学教養課程の古典力学テキストとして十分通用するくらいの
理論展開が含まれてます.大学に入ったずぶの素人の頃、この本で講義して欲しかった。
分厚いけど。姉妹編に「熱学思想の史的展開」があります.同じく現代数学社.
この2冊はとても良書だと思います.今では即物性の代名詞のような理論物理学
( ← まっ、私はアマチュアですから)ですが、こんなにも思想がついてまわったのかと、
あらためて思い知らされます.思想とは、理論の意味を訪ねるということだと思います.
そして自然認識の究極については、25世紀前のギリシャ人も現代人も全然変わらないことがわかります。
印象的だったのが社会学者ウェーバーを引用した部分です.
「人間は重力が何故伝わるかは何一つ知らないくせに、それがどのように伝わるかを知ったのみで、
人工の星を造った。それはとても奇妙なことではあるけれども、とても近代的なことだ。
それが「魔術からの世界解放」ということであり、何も物理学だけには限らない。
「魔術からの世界解放」とはウェーバーの言葉である」
NO.1255 | 2002.8.17. | Junko | ネイピアの不等式(2) |
(1)平均値の定理による証明
f(x)=logxとおく。x>0で単調増加。f'(x)=1/x。
f(x)は[a,b]で連続、(a,b)で微分可能なので平均値の定理により、
a<∃c<bに対して、
一方、f'(a)=1/a、f'(b)=1/b
f'(x)=1/xは、単調減少だから、f'(b)<f'(c)<f'(a)、つまり
(2)微分による証明
f(x)=logxとおく。
A(a、loga)、B(b、logb)とすると、
線分ABの傾きは、
y=f(x)は、x>0において単調増加、かつf'(x)=1/x>0より上に凸。
従って、点Bにおける接線の傾き<線分ABの傾き<点Aにおける接線の傾
すなわち、
(3)積分による証明
f(x)=1/xとおく。x>0において単調減少。
[a,b]において、
従って、
NO.1256 | 2002.8.20. | BossF | ネイピアの不等式(3) |
[ネイピアの不等式]…このネイピア(ネイピア数のネイピアだと思いますが)の由来
は、なんでしょうか?
閑話休題
とりあえず、対数の底はネイピア数として考え
以下a,b は 0<a<b を満たすものとします。
証明1:平均値の定理を用いて
[解]
f(x)=lon x とおくと、
f(x) は [a,b] で連続、かつ (a,b) で微分可能ですから
平均値の定理より
∃c ; a<c<b かつ {f(b)-f(a)}/(b-a)=f'(c) (=1/c)
また、y=1/x の単調性から 1/b<1/c<1/a
よって題意は示されました ■
証明2:微分を利用して
[解]
b-a>0 より
与式⇔1-a/b<lon(b/a)<b/a-1
まず、左辺<中辺 を示します
f(x)=lon x + 1/x -1 (x>0) とおくと
f'(x) | =1/x - 1/x2 |
=(x-1)/x2 |
次に、中辺<右辺 を示します
f(x)=x-1-lon x (x>0) とおくと
f'(x) | =1 - 1/x |
=(x-1)/x |
証明3:積分を利用して
[解]
f(x)=1/x としますと、その単調性より
[a,b] で 1/b≦ f(x) ≦1/a ですから、
よって題意は示されました ■
と、ここまで書いてふと見たら、すでにエレガントな解法がアップされてるではあり
ませんか…(^^;;
ただ、余計な等号(<⇒≦ になってます)がついてますが。
NO.1257 | 2002.8.26. | usacchi | 自然現象と数学の関係について(1) |
数学の先生からの質問にどのように答えてよいのか分からなかったので、皆さんの意見を聞きたいのですがよろしいでしょうか?
自然現象の奥には公式(Formula)、法則(Law)、原理(Principle)などと呼べる何かが存在していると思いますか?
私は存在してると思うのですが、そこのところが漠然としすぎて説明ができないので困っています。
NO.1258 | 2002.8.26. | DDT | 断面が常に円である立体図形(2) |
立体図形の問題です。ある閉曲面があり、その曲面が平面で切断されるときの断面が常に円であるとき、この閉曲面は球であることを証明してください。
[方針]
だらだら考えていたら、4つほど方針が出てきましたが、私に実行可能なのは最後の一つでした。
@ 微分幾何学や多様体の知識が豊富な場合
問題の条件から定ガウス曲率、くらいのことを簡単に示して「ポンッ!」と答えを出す。
⇒この分野は頻繁に挫折してるので、無理。
A 対称性を利用する場合
球の中心を座標原点に選んだ場合、球は完全な等方性を持っている。
すなわち球面極座標でr=const。次に任意の切断平面で断面は円。
円はその中心に対して完全な等方性を持っている。
すなわち原点が断面円の中心にあり、切断平面に沿った座標系の平面極座標でr'=const。
前後の座標系は、直交アフィン変換で移りうる(明らかに計量を変えてはいけない)。
ベクトルの長さ|r|は、直交アフィン変換の不変量。このあたりの計量の同型性から答えを出せそう。
⇒でも必要な計量の構成の仕方がわからない。やっぱり無理。
B 位相的に解く場合
問題の条件から、求める曲面はトーラスと同相であることを導く(漠然と正しい気がする)。
トーラスの直径を含み、トーラスの乗る平面に垂直な任意の方向の平面で切断した場合、
断面は2個の円になる。任意の方向で2個の断面円が重なるトーラスが球であることは、ほぼ明らか。
球と同相が必要条件となるから、球でなかったらと仮定して矛盾を導き、答えを出す。
⇒「無理、無理」「できるわけがない」
C 問題の対称性を利用して、初等幾何学的に処理する。
⇒「オッ?。できるんじゃないか?」
[Cの実行]
図-1のように、ある切断平面@で切った切口を黒円で表し、切口@とします。
切口@の中心は、切口@の乗る切断平面@上にあります。切断平面@と直交し、
切口@の中心を通るような切断平面Aの切口を青円で表し、切口Aとします。
切口@は、求める曲面の境界上にあることから、切断平面Aと切口@の交点を、切口Aは通ります。図-1の青点です。ところが切断平面Aは、切口@の中心を通るので、青点は切口@の直径(青線分)と円である切口@との交点であり、切口@の中心から切断平面@に垂直上方に伸ばしたピンクラインは、切口Aと必ず交わります(ピンク点)。ピンクラインが切口@の直径の2等分線であることから、切口A中心は、ピンクラインの下方延長上にあります(黒点)。
次に切断平面Aと違う方角に、切断平面Bをとりますが、切断平面Bも切口@の中心を通り、切断平面@に垂直とします。切断平面@,Aの関係と全く同じことが、切断平面@,Bの間に成り立つので、切断平面Bの切口Bは、図-2の赤点とピンク点を通ります。同一平面上の3点(3点なので同一平面上は明らかです)を通る円は中心位置まで含めて唯一に決まり、切口Aの青-ピンク-青点の配置と、切口Bの赤-ピンク-赤点の配置が同一なので、切口AとBは同じ半径を持ちます。かつピンクラインの下方延長上にその中心があるのも同じなので、切口AとBは中心を共有します。よって図-3となります。従って、切口Bはピンクラインを中心軸として、切口Aを適当に回転させたものです。
以上のことは、切口@を通って切断平面@に垂直な任意の方角の切断平面で成り立つので、求める曲面は図-3の「軸」を回転軸とした、切口Aの円の回転面となり球です。
NO.1259 | 2002.8.28. | Junko | 自然現象と数学の関係について(2) |
数学も含めて自然科学(現象)について、人間がそれを認知できるかどうかは別問題ですが、
ある法則、原理が働いていると思います。
それを人間が認識できるべく研究してきたことが人類の歴史なのではないかと思います。
認識できた事柄は、人間が理解できる方法で表現されているわけで
すが、人間が知っていようといまいと、π(円周率)は存在するし、
それを表現するのに、πと呼ぼうが、xと呼ぼうが、それは本質的
なことではないと思います。
未知の天体からの来訪者とコミュニケーションをとるとしたら、
数学を介するのが一番いいという話しもある?
「神がダイスを振るとはとうてい信じられない」というアイ
ンシュタインの有名なことばがありますけれど、
つまり偶然性に支配されるものが存在するということですが、
これすらも「不確定性原理」ってことになるわけですよね。